2002年7月18日(2003年1月31日、2003年7月修正版、その後も微修正あり)
東京大学生産技術研究所記者会見
[Earth]

『世界の水危機、日本の水問題』
東京大学生産技術研究所
人間・社会系部門

教授(発表当時は助教授) 沖 大幹

[吉野川第十堰]

修正について

下記の記事は当初の発表から算定手法の全面的な見直しを行いました。 2002年度修士2年生の佐藤未希さん、 河村愛さんを中心に三宅基文君の算定値を吟味し、 下記の点を修正して、新たな値としました。ここに示されていますのが、 2003年2月12日時点での我々がもっとも適切であると考える数値です。 修正の主な項目は、 等です。先に発表した数字に基づいて報道、 出版されました皆様方におかれましては、 ご迷惑をおかけして大変失礼いたしました。 また、現在の総仮想水輸入量640億m3/年という数字に至る前に、 744億m3/年という値を提出していた時期もありました。 本Webページから図表等を引用されます際には、 沖まで ご連絡をいただけますと幸いです。なお、紹介されます際には、
東京大学生産技術研究所の沖 大幹教授等のグループが試算した結果によると
という風に書いていただけますと幸いです。もちろん、 個々の学生達の名前を引いていただいたり、 直接インタビューしていただけますと本人達の苦労も報われますし、 ご両親等にも喜んでいただけるものと思いますので、 ご配慮いただけますと大変ありがたく存じます。 ちなみに、各学生の論文は以下の通りです。 なお、英語でのフルペーパーは随時発表していく予定でしたが、 取り急ぎIHE-DelftでのExpert Meeting on Virtual Water Tradeの Proceedingsが出版されました。 世界水フォーラム京都会場のIHE-Delftのブースでも配布されていますが、
Virtual Water Trade, Edited by A.Y. Hoekstra, Proceedings of the International Expert Meeting on Virtual Water Trade, Delft, The Netherlands, 12-13 December 2002, Value of Water Research Report Series No.12, February 2003.
の中に、
T. Oki, M. Sato, A. Kawamura, M. Miyake, S. Kanae, and K. Musiake, Virtual water trade to Japan and in the world, Virtual Water Trade, Edited by A.Y. Hoekstra, Proceedings of the International Expert Meeting on Virtual Water Trade, Delft, The Netherlands, 12-13 December 2002, Value of Water Research Report Series No.12, 221-235, February 2003.
として載っています。 IHE-Delftの当該Web Pageからダウンロードもできますし、オーダーすれば、 送ってもらえると思います。(上記文献名にPDFへのリンクを貼りました。) また、 に書きました。仮想水についてもまとめて述べていますので、 必要に応じてご参照ください。 さらに、

にこれらを正式な論文として掲載しておりますので、 査読つき論文の参照が必要な場合にはこれを引用文献とください。

  • さらに、環境省が我々のデータに基づいて
    Web版バーチャルウォーター計算機
    を作ってくれました。NPO法人日本水フォーラムさんの製作です。
    オランダグループのwater footprint network
    はvirtual water/waterfootprintの研究が命なので、気合い、包括性、 宣伝で負けますが、値が違うのは考え方の違いによるところも大きいですし、 日本で作るか世界の平均的な値を考えるか、の違いもあります。詳しくは、

    をお読みください。 環境省版バーチャルウォーター計算機の方は 食事メニューのバーチャルウォーターという面からは まだまだ弱いかも知れませんが、 それなりのデータがまとまって公開されていますので、 何かのときにはこちらもご参照ください。
  • 関連の資料として下記もご参照ください。


    概要

    ヴァーチャルウオーターとは、 ロンドン大学のトニーアラン教授が1990年代初頭に思いついた概念で、 元々は、中近東の様に一人当たりの水資源量が絶対的に少ない国々に関して、 想定されるほどには水をめぐる国家間の争いが激化していない理由を説明するために 利用されていた。 すなわち、それらの国々では大量の食糧を国外から輸入することにより、 自国で生産した場合に比べて国内の水資源を節約できているので、 食糧の輸入はvirtual water(仮想水)を輸入している様なものだ、 というわけである。実際、 農業灌漑用の水利用は世界の水資源使用量の7割〜9割を占め、 農業を他国に頼ることは水資源を節約する手っ取り早い手段である。 この概念を日本に適用し、 灌漑水(ブルーウオーター)のみならず、 天水起源の土壌水分(グリーンウオーター)をも含めて水資源の利用とし、 日本が輸入している穀物を日本で栽培していたらどの程度の水資源が必要であったか、 あるいは畜産製品を生産するための飼料用の穀物の生産等には どの程度の水が必要であったかを2000年の輸入量に関して算定した。 これによると、日本は食糧輸入によって640億m3/年もの 国内の水資源を使用せずに済んでいると算出された。 しばしば小麦の生産には千倍の重さの水資源が必要だ、と言われるが、 精製ロスなどを考慮すると可食部重量の2,000倍、米では3,600倍、鶏肉では4,500倍、 牛肉では約20,000倍の水資源が必要であるとここでは算定されている。 なお、こうした製品の単位重さあたりに必要な水資源量(水消費原単位)は 単位面積当たりの穀物の収量に逆比例するため、 国や地域、年代によって大きく変化する。 輸出元の国での水消費原単位を用いるとそれはヴァーチャルではなく 実際に使用された水資源量に相当し、 一般には輸入国での水消費原単位に基くvirtual waterの算定値よりも小さく、 水に関する比較優位の法則が成り立っていることが多い。 両者は混同されやすいので、前者を現実投入水量、 後者を仮想投入水量と呼んで区別してはどうかと思う。

    構成

    1. 日本を中心とした仮想水の輸出入
      1. 1 仮想水とは?
      2. 2 Virtual waterと穀物の水消費原単位
      3. 3 畜産や工業生産とvirtual water
      4. 4 日本の年virtual water総輸入量
    2. 仮想水推定の新規性と意義、今後の展開
    3. 世界の水需給の現状と将来推計
    4. 参考文献
    5. 連絡先
    6. 図表、文章ファイル
    7. 補足: 背景と経緯

    1. 日本を中心とした仮想水の輸出入

    1.1 仮想水とは?

    仮想水とは、virtual waterの直訳で、1990年代以降に提案された考え方です。 それは、モノを生産するためには水資源が使われており、 国際的な穀物の輸出入等は、あたかもvirtual waterを輸出入しているのと同じだ、 という考え方です。 例えば、London大学のJ. Anthony Allan教授は、 中東の水不足地域において、 穀物を輸入していなかったら水不足はより逼迫していて、水をめぐる争いが より緊迫していただろう、という観点から、virtual waterの輸入により、 水需給が緩和されている、 という主張をしています

    日本においては、「食糧を水資源量に換算するとどうなるか」が Virtual Waterであると解釈され、また、国際的にもそうした解釈がなされる こともあります。 しかし、それは厳密な意味では仮想水であるとは言えません。 輸出国でどのくらいの水が投入されたか、を換算した場合、 それは「仮想」ではなく、実際に使用された水資源であるからです。 こうした混乱は、2002年12月にIHE-Delftで開催された、 Virtual Waterに関するExpert meetingでも見受けられ、 その後の会議参加者間のe-mailによる議論にまで発展しました。

    こうした状況に対し、我々はTony Allanを含めた人々に対して、 次のような提案をしています。

    すなわち、この仮想投入水量こそがいわゆるオリジナルの意味での virtual water(仮想水)に相当し、食料などの輸入に伴って、 輸入国でどの程度の水資源が節約されたか、を見積もることができるわけです。 慣用的に、短縮して現実投入水量を現実水(real water)、 仮想投入水量を仮想水(virtual water)と呼ぶ、 と言う風にきちんと定義すると、virtual waterが、 単に小麦1kg生産するのに何トンの水が必要、 という置き換えではないことがはっきりすると思います。

    生産国(輸出国)と消費国(輸入国)とで水消費原単位、 すなわちある製品の単位量を生産するのに必要な水量、 が同じであれば、現実投入水量と仮想投入水量とは同じになります。 しかし、単位面積当たりの収量が国によっては何倍も異なるために、 水消費原単位は国によって、また技術の進展に伴って時系列的にも異なります。 我々は、水の過不足による収量の多寡よりも国や地域と時代背景による 単位面積当たりの収量の差の方が第一近似的には支配的であると見做し、 穀物は生育に一定の水を使用するが、収量が異なる、という仮定の元、 国や地域ごとの水消費原単位を求める研究も行っています。

    これによると、一般に単収は生産国(輸出国)の方が消費国(輸入国)よりも 高いため、水消費原単位は生産国(輸出国)の方が消費国(輸入国)よりも 小さくなります。すると、同じ1kgの小麦に対する投入水量も、 生産国では1.8m3なのに対し、消費国では2.5m3である、 という風に、仮想投入水量の方が現実投入水量よりも多くなる 事態が生じていることになります。 これは経済学で言う比較優位の法則に対応しており、 投入水は高きから低きに流れるのではなく、 単収の高い国から低い国に流れる、という原動力になっています。 より単収が高く水消費原単位が少ない国で生産し、 単収が低く同じだけの食料等を生産するのにより多くの水を必要とする 国で輸入して消費することは、 グローバルに見ると水資源を節約していることになります。 ただし、こうした投入水量を用いた議論は、水という観点のみから 食糧問題を論じた場合の話であり、 地域のコミュニティや歴史的経緯等、 virtual waterのみでは考慮されない視点に対しても気を配る必要が あると考えられます。

    1.2 Virtual waterと穀物の水消費原単位

    virtual waterを考える際には、穀物や畜産物、工業製品の生産に、 単位重さ当たりなどでどのくらいの水が利用されているか、 という「水消費原単位」を知ることが必要です。 これに関しては、「小麦は重量比で1000倍の水、肉に関しては、 可食部重量で、さらに鶏だとその4倍、豚だと7倍、牛肉だと13倍の水が 投入されたと考えるべき」という数字がさしたる根拠もなく一人歩きしていましたが、 今回、沖グループでは、農業生産のプロセスに立ち返り、 「日本で灌漑により生育したとしたら、米、小麦、とうもろこし、大豆1kgあたり どのくらいの水資源が必要とされるか」を体系的に推計しました (図-1)。 具体的には、典型的な栽培日数に対し、 毎日4mm(稲は15mm)分の水が蒸発散や浸透等に必要であり使用される、 と見做しています。すなわち、灌漑してさらに加える分の水、 blue waterのみならず、天水に起因する土壌水分、green waterもここでは消費される水資源として勘案していることになります。 こうして求められた使用水量を単収で割ることにより水消費原単位が求められました。 ただし、飼料用とうもろこしの日本国内での生産量はきわめて少ないため、 飼料用とうもろこしのみ世界平均の単収を用いて水消費原単位を算定しています。 これによると、C4植物で光合成効率の良いとうもろこしでも粒のみ を考えると重さあたり1,900倍、精製後の小麦では2,000倍、 精米後の米では約3,600倍の水を利用している勘定になりました。 日本が年間に輸入している小麦やとうもろこし、大豆の量にこれらの 水資源原単位をかけて推計すると、アメリカやカナダ、オーストラリアや 南米から年間約400億トン(m3)程度の仮想水が輸入されていることが わかりました(図-2)。 輸入量は2000年、単収は1996-2000年の平均値です。

    [図-1] [図-2]
    (図-1) (図-2)

    1.3 畜産や工業生産とvirtual water

    さらに、日本で飼育される鶏、豚、牛に関して、飼料に含まれる 飼料の割合、1日あたり投与飼料量、生育期間、そして1頭あたり得られる 肉の量から、畜産に関しても、「日本で飼育したとしたら、 鶏肉、豚肉、牛肉1kgあたりどの程度の水資源が必要であるか」を推計しました (図-3)。 そこでは、産まれてくる仔牛や子豚に付随するrequired waterの量も考慮し、 牛に関しては肉牛と乳牛に分け、鶏に関しては肉用と卵用で別途算定ています。 その結果、鶏肉でも約4,500m3/t(あるいは5m3/kg)、 豚の正肉だと5,900m3/t、 牛の正肉に至っては、20,700m3/t もの水消費原単位だということが算出されました。 牛肉100gあたり、約2m3の 水資源が利用されている勘定になります。 これは、小麦に比べると、鶏正肉で約2倍、豚正肉で約3倍、 牛肉で10倍の水資源利用量に相当します。 また、鶏卵は3,200倍、牛乳は約560倍の重さの水資源を利用した産物である、 と考えるべきである、という結果も得られています。 この水消費原単位と2000年の肉製品の輸入量に基づいて 算定した畜産物に伴う仮想水の輸入を示したのが図-4です。 穀物に比べてより多様な国からvirtual waterを輸入していることが分かります。 総量は200億m3を越えています。

    [図-3] [図-4]
    (図-3) (図-4)

    工業製品の場合には、出荷額あたりの水資源消費量を求めて、 工業用水にまつわる仮想水の輸出入も算出しました(図-5)。 2000年に対する推計値です。 これによると、工業用仮想水の総輸入量14億m3/年は 総輸出量13億m3/年よりも大きくなっています。 中東からの工業用仮想水は石油製品(原油そのものを除く)に伴うものです。

    1.4 日本の年virtual water総輸入量

    これらをまとめて日本が輸入している総仮想水を示したのが図-6です。 牛肉の輸出元であるアメリカやオーストラリア等からの仮想水輸入が主力ですが、 畜産物等に伴い中国や東南アジア、ヨーロッパからも仮想水を輸入している ことが分かります。 仮想水の総輸入量は約600億m3/年にも達し、 日本国内での総水資源使用量約900億m3/年の3分の2程度の水を、 日本は海外に頼っていることがわかりました。 ちなみに、2000年におけるミネラルウオーター等の輸入量は 年間19.5万m3、ビール等を含めても年間100万m3程度で、 virtual waterに比べるとごくわずかとなっています。 それよりも、年間3,000万トンにも及ぶ食糧に含まれる水の方が、 直接的な物質としての水の輸入量としては遥かに多いものと考えられます。

    [図-5] [図-6]
    (図-5) (図-6)

    2. 仮想水推定の新規性と意義、今後の展開

    本研究では、従来根拠不明なまま1kgの小麦を作るには1tの水資源が必要、 等と言われてきたvirtual waterに対し、農業畜産プロセスを体系的に 調査推計することにより、 信頼のおける値を定量的に算出した点に大きな意義があります。

    また、日本が世界のどの国や地域の仮想水に頼っている国家であるかを、 輸出入統計に基づいて示した点に大きな意義があります。 もちろん、日本の場合には、 水資源の不足を仮想投入水の輸入で補っているというよりは、 土地不足、特に牛肉生産のための土地の不足を輸入によってまかない、 それに伴ってvirtual waterが大量に輸入されていると考えた方が 本質を外していないでしょう。

    オランダ皇太子オレンジ侯がヨハネスブルグ環境サミット向けに提案している 文書``No Water No Future: A Water Focus for Johannesburg''にも、 世界各国は農産物の輸出入に伴うvirtual waterのアセスメントを行うべきである、 と提案されており、本研究は日本におけるvirtual water輸出入の 体系的な初めての調査結果として、こうした国際的な場で情報発信できる 貴重な成果です。

    また、生活をvirtual waterの輸入に頼っている日本は、 その恩恵を世界へ還元することを考えることも必要でしょう。 それには、例えば水資源開発など、利用可能な水を増やすODAを行うことが考えられ、 ある意味ではそれは輸入超過しているvirtual waterを、 まさに世界に還元していることになる、とも言えます。 そうした援助や投資を考える際には、 今回の研究成果が貴重な基礎資料となると考えられます。

    また、ここでは水に関してのみ示していますが、 土地や労働力も同様に海外に依存していて、 広大な海外の農地が日本社会を支えていることが想像できます。 そうした地域の農業生産の持続性や年々の生産高の変動に関心を払い、 注意深くモニタリングしていくことが、 日本の将来を考える上では極めて重要だと考えられます。

    今後は、今回得られた「日本でそれをまかなうとしたら水資源がどれだけ必要か」 だけではなく、現地でどのくらい実際に利用されているのか、 の調査を国際的な枠組みの元で推進していくことも必要だと思われますし、 また、エコロジカルフットプリントの概念と連動して、 ハイドロロジカルフットプリント、 すなわち人が生活に必要な水を得るためにどの程度の土地を必要としているのか、 も定量的に考慮していき、 今後の地球環境問題の解決を考える手がかりを提供してきたいと思います。

    この成果に基づく現在展開中の研究として、現在水に関する LCA(life cycle assessment)に着手しています。 それは、温暖化に関連して、エネルギー消費やCO2排出に関する LCAが行われて、 「あなたの今日一日の暮らしはCO2排出量○○kg相当」 といった数字が具体的に得られる様になっているのと同様、 「このパソコン1台製造、使用、解体まで○○tの水資源消費」といった、 水のLCAが可能となるように、今度はマクロな視点から、 水の間接消費がまざまざとわかるようにするための研究です。 牛丼1杯あたり約2m3の水資源が利用されている、といった数字が、 日常生活の様々な製品やサービスに対して得られる様にするのが目標です。

    3. 世界の水需給の現状と将来推計

    現在、世界の水需給の現状と将来推計を精力的に行っている機関は、 世界に5〜6グループ程度あります。 各グループにはそれぞれ特徴があり、日本では国立環境研グループが、 温暖化予測に関する社会的側面の将来展望を構築した実績を生かした 将来推計を行っています。

    [図-7] [図-8]
    (図-7) (図-8)

    地球研/東大生研 沖グループでも、陸面植生モデルの流出量算定値を、 従来より開発提供しているグローバルな河道網(Total Runoff Integrating Pathways; TRIP) (Oki and Sud, 1998)を用いて水資源に換算し、 世界陸面0.5度での水資源アセスメントを行うことができる 様になりました(Oki et al., 2001)。 水利用比(年取水量/潜在的利用可能年間水資源量)の現状推計 (図-7)に関しては、 従来の研究とほぼ同様の結論が得られ(図-8)、 さらに、「利用可能な」水資源量の算定に関して、 上下流問題や水利用に関する社会資本整備等、 従来通りの手法ではまだまだ充分に考慮されていない点も多く、 改良の余地が残されていることも明らかとなりました。 年間一人当たりの潜在的利用可能水資源量(図-9)は、 水利用比とほぼ同様の分布を示しましたが、 年間一人当たりの取水量分布(図-10)は北アメリカ、 特にアメリカ合衆国西部等で非常に大きな値をとり、 こうした領域では、その地域内で消費する水資源だけではなく、 他地域での消費に供する農業製品等の生産のために、 大量の水資源を利用していることが推察されます。 すなわち、virtual waterのソースとなっている地域が、 (図-10)にはまざまざと示されていると考えられます。

    [図-9] [図-10]
    (図-9) (図-10)

    2000年のScience誌に掲載されたアメリカニューハンプシャー大学の将来推計では、 人口増加のみを考慮すると、世界平均の水の需給状況は現在に比べてより50%逼迫し、 温暖化の影響を加えると、さらに増大して現状比60%の逼迫になる、 という結果を示しています。これに対し、 東京大学気候システム研究センターと国立環境研究所が開発している 気候モデルによるCO2漸増実験の結果(図-11)を用いて、 我々が推計した結果(図-12)では、 人口増加のみを考慮した場合、 水ストレスが高い人口は、2050年に於いて90%程度増加するものの、 気候変動を考慮するとそれが72%増程度に緩和される、という結果となっています。 これは、温暖化に伴い、夏のアジアモンスーンが活発になってインド付近の降水量が 増加すること、中国に於いて現状でも水ストレスの高い北部地域で温暖化により 降水量、流出量が増加する傾向となっていること、等によるものです。 いくつかの気候モデルの結果を利用して比較検討した国立環境研究所の 研究でも指摘されている通り、気候モデルにより、特に地域スケールでの 温暖化に伴う水循環の変化予測には不確実性が高く、 より高解像度高精度の将来推計が望まれています。 現在実施されているプロジェクトにより、研究が進み、 特にアジア域に関する確かな水需給の将来展望が描かれることが期待できます。

    [図-11] [図-12]
    (図-11) (図-12)

    4. 参考文献


    5. 連絡先

    沖 大幹(おき たいかん)
    東京大学生産技術研究所 教授
    〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
    Phone: (03) 5452-6382, Fax.: (03) 5452-6383

    6. 図表、文章ファイル

    主要な図の白黒版

    (Thanks to Agata-san and Yanagisawa-kun)

    [図-2] [図-4]
    (図-2白黒版) (図-4白黒版)
    [図-6](工業なし) [図-7]
    (図-6白黒版、工業なし) (図-7白黒版)
    [図-10] [図-11]
    (図-10白黒版) (図-11白黒版)


    7. 補足: 背景と経緯

    「21世紀は水をめぐる争いの世紀となるだろう」という前世銀副総裁 イスマル・セラゲルディン氏の言葉に象徴されるように、 世界各地の水をめぐる問題が取りあげられ、 今後2050年には90億人にまで増加すると予想される世界人口を養うための食糧、 その食糧を生産するための水をいかに確保できるかが世界的に大きな懸念と なっています。

    こうした懸念に対して、正確な将来展望を持ち、 将来の水問題に備えた適切な行動を早目に選択実行することを促すために、 例えば世界水フォーラムが開催されており、 その第3回が2003年3月に京都で開催されます。 また、8月末から9月にかけてのRio+10、 ヨハネスブルグでの環境サミットでも世界的な水問題に対する関心が宣言文に前回よりもより鮮明に盛り込まれそうな状況です。

    しかし、こうした世界的な水問題に対する情報発信は 欧米中心に偏っており、アジア的な視点に欠けるきらいがありました。 それらは、例えば、

    等であり、言い換えればアジアモンスーン地域特有の水文化への理解が 世界的にみればまだまだ不足しているということです。 こうした状況を変えていくために、アジア太平洋水文水資源協会(Asia Pacific Association of Hydrology and Water Resources)が東南アジア 各国を中心に、日本(東大生研虫明功臣教授等)が牽引役となって 9月の設立を目指して準備中であり、 2003年3月には第3回世界水フォーラムに併せて、 アジア太平洋水文水資源管理第1回国際会議が開催される予定となっています。

    こうした国際的な場において、世界の水資源問題に対して 日本からの情報発信を行う重要性が緊急に認識され、国内でも 科学技術振興事業団 (Japan Science and Technology Corporation; JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)に、 「水の循環系モデリングと利用システム」(研究総括: 虫明 功臣)が 平成13年度に発足し、 また、科学振興調整費でも「21世紀のアジアの水資源」(代表: 鬼頭 昭雄、 気象庁気象研究所)が同じく平成13年度に採択され、研究が開始されています。 さらに、文部科学省研究開発局海洋地球課では 「人・自然・地球共生プロジェクト」を平成14年度から実施し、 7つのサブ課題のうちのひとつとして 「水資源予測モデルの開発」(代表: 竹内 邦良、山梨大学教授)が 実施されています。 また、平成13年4月に新たに創設された文部科学省大学共同利用機関(直轄研) 総合地球環境学研究所(略称: 地球研、 所在地: 京都市上京区)のプロジェクトとして、 「地球環境情報ライブラリと世界モデルとを統合した水危機管理システムの構築」 (代表: 沖 大幹)が平成13年度のfeasibility studyを経て、 平成14年度から本研究が実施されています。

    沖研究グループでは、上記JST/CRESTに対しては、 『人間活動を考慮した世界水循環水資源モデル』(代表: 沖 大幹)として、 上記科学振興調整費に対してはサブグループ代表として、 共生プロジェクトには黄河流域地表水班(グループリーダ: 福嶌 義宏、地球研) のメンバーとして参画し、 多方面から地球規模の水循環と水資源の現状把握と、将来展望、 そして解決策の提案に至る研究開発を行っています。

    こうした状況の中、この8月2日、3日に日本学術会議等で 開催される5年に1度の「水資源に関するシンポジウム」 では沖研究室グループから次の発表がなされます。

    ここでは、このうち、はじめの2つに関してひと足先に紹介しました。 前者は三宅基文君の平成13年度東京大学工学部土木工学科の卒業論文、 後者は猿橋崇央君の平成12年度東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻の 修士論文に基づいています。 データの取りまとめや調査、図の作成等に関しては、 虫明-Herath-沖研究室(東大生研水文学・水資源工学研究グループ)のみなさん、 ならびに各種プロジェクトの共同研究者の皆様の協力を得ています。 ここに記して感謝の意を表します。


    掲載紙面一覧

    掲載が確認されているのは次の各紙です。 これ以降は把握していません。

    引用掲載一覧

    引用が確認されているのは次の文章等です。 これ以降は把握していません。Web上出も数多く引用していただいています。

    放映一覧

    これ以降も、結局TVだと、virtual water/waterfootprintの話ばかりで 多少フラストレーションが溜ります。
    Jump to: [Oki' HOME] 沖 大幹のHome Page
    Jump to: [Hydro HOME] 虫明-Herath-沖研究室ホームページ.

    Feedback to Taikan Oki ( taikan@iis.u-tokyo.ac.jp) will be highly appreciated.
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    (Last updated at October 2012)