[IIS] 2009年5月28日
報道用資料
[UT] [UT]
『1台の車、1リットルのビール、1台のPCのウォーターフットプリントは?』
[工業用水の流れ]


東京大学 生産技術研究所 人間・社会系部門
教授 沖 大幹

東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻
修士課程1年 近藤 剛

[A Car]

概要

東京大学生産技術研究所の水グループでは、 「水の知」(サントリー)総括寄付講座と連携しつつ、 地球規模の水循環と世界の水需給に関する研究を進めています。 地球温暖化や社会の変化を考慮した 21世紀の世界の水需給に関する研究 に加えて、 食料の輸出入が各国の水需給にどういう影響があるかを推計する バーチャルウォーター、いわゆる 仮想水貿易(virtual water trade)や、 どの国のどういう水源(耕地への雨水、自然の河川水、 大規模貯水池からの放流水、 非持続的な地下水)からの水が食料生産に使用されたか、 という詳細なウォーターフットプリント(water footprint; WF)の算定を行ってきました。 この度、工業製品の生産に利用されている水の量や水質負荷量等について、 工業用水統計と産業連関表等に基づいた推計値がまとまり、 5月29〜30日に開催される生研公開2009(駒場リサーチキャンパス公開)で 発表される運びとなりましたので、 プレスの皆様に事前にご説明いたします。


本Webページ(http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200905/)の 内容をご紹介いただけたり図表やデータ等をご利用いただける際には、 事後でも結構ですので

までご連絡をいただきますようお願い申し上げます。 [at]@に置き換えてメール送信願います。

1. 背景

バーチャルウォーター貿易とは、水不足の国にとって、 食料の輸入は水の輸入と同じような意味を持つ、 ということから名付けられた言葉で、 厳密には輸入国でもし輸入食料を生産しなければならなかったとしたら、 どの程度の水資源が必要であったか、を示す概念です。 しかし、virtual water tradeという言葉を最初に用い、 2008年のStockholm Water Prizeを受賞したロンドン大学の J. Anthony (Tony) Allan教授ですら、 "water footprintの方がusefulだ"と言って(私信)いたように、 実際にある食べ物などの生産に際しどの程度の水資源が使用されたか、 の指標であるwater footprintの方が一般にもわかりやすいのも事実です。 それは、バーチャルウォーター貿易の概念が国や地域の水資源需給を いかに満足させるか、という検討に有用なのに対し、 ウォーターフットプリントは、消費者がある製品がどの程度 水環境に負荷をかけて生産されたものであるかを判断できる 可能性を秘めた概念だからでしょう。

地球温暖化への緩和策として二酸化炭素の排出量策減が各国の 喫緊の課題となっている現在、それぞれの製品が製造から廃棄に至るまでの間に 一体どのくらいの二酸化炭素の排出を伴っているか、を ライフサイクルアセスメント(LCA)として計算し、排出量を求めた結果を カーボンフットプリントとして指標化して製品のラベルに表示し、 省エネ製品の差別化を図ろうという動きがあります。 ウォーターフットプリント(WF)はまさにこれに対応するもので、 欧州では企業も巻き込んだWFの連合が今年になって組織され、 シンポジウムやセミナーも開催されるようになりつつあります。 3月にはスイスからWFのISO規格策定の提案が出され、 その是非をめぐるISOの第207技術委員会サブ委員会5での 参加主体からの投票が行われているところです。


2. 主な図表

図1 [slide1] (253KB)

図1: 乗用車のWLCA(水資源に関するライフサイクルアセスメント)。

図2 [slide2] (137KB)

図2: 乗用車のWLCA、取水源、用途別詳細。

図3 [slide3] (208KB)

図3: パソコンのWLCA。

図4 [slide4] (157KB)

図4: ビールのWLCA

図5 [slide5] (99KB)

図5: ビールのWLCA詳細集計。

図6 [slide6] (199KB)

図6: 清涼飲料水のWLCA。

図7 [slide7] (216KB)

図7: 日本全体の工業用水利用、マクロなフロー図

図8 [slide8] (93B)

図8: 工業分野のウォーターフットプリントの輸出入

図9 [slide9] (251KB)

図9: 国民一人あたりの年間ウォーターフットプリント

図10 [slide10] (18KB)

図10: 身近な製品のWLCA試算結果


3. 主なデータ


4. 精度について

今回の算定には原材料の一次生産に必要な水資源、 すなわち、綿花や木材・チップ、食品の原材料となるような穀物など、 植物の生育に必要な水資源分は考慮されていません。 ビールを例にとると、1リットルの製造に再生水分も含めて 約34リットルの工業用水が利用されているのに対し、 原材料の生産には雨水も含めて240〜280リットルと別途推計されており、 そうした植物成長に必要な分を加えると、非常に大きくなることが想定されます。

また、今回の推定値自体は産業連関表などに基づいて数学的に厳密に 算定されています。 しかし、最終的な推計値の他国との比較における普遍性や 時間変化に対する一貫性などについては今後の課題であり、 あくまでも平成12(2000)年統計に対する試算であり、 製品間の相対的な大小の比較には意味があっても、 有効桁はせいぜい2桁程度であるとお考えいただいた方が良いと思います。 また、今後のISOでの検討経緯等によっては、 再生水分も考慮した方を前面に出すとか、 大きく扱いが変わってくる可能性もあり、 その場合、推計値もかなり異なる値になることも考えられます。

マクロ的な方法ですので、最終需要別の間接利用量といった推計値や、 最終投入と中間投入の割合などは、産業連関分析の結果高い精度で求まります。 しかし、個別製品の一単位あたりへの変換に関しては、 産業連関表の分類と生産数量データが完全に対応していない可能性があります。 仮に生産数量が実は2倍だったら、 1製品あたりの水使用量は一気に半分になってしまいます。 また、水質に関しては"参考程度"の精度です。 一つには、汚濁物質の発生負荷量データは産業細分類であるものの、 空欄箇所も多く、 その場合は産業枠ごとの平均値を用いているのが不確定要因です。 さらに、除去率のデータは存在せず、 調査時期と調査主体の異なる別々の調査結果を用いて、 産業大分類程度の枠組みで推計した除去率値を用いていることにも注意が必要です。

輸入を内生化した産業連関分析を用いていますが、 そこでは各産業の輸入率が一定であるという仮定を置いています。 現実的には産業間の輸入率(製品の生産にどれだけ輸入材を使用しているか) は異なります。

なお、本研究成果で示すウォーターフットプリントの値は日本平均であり、 特定企業の製品の調査に基づく推計値ではありません。 また、産業連関表が5年に一度公表されるので、 その間に産業構造が大きく変化した場合には、 その変化はすぐには反映されません。 一番の限界は、工業統計の「事業所別の分類」と 産業連関表の「アクティビティー・ベースの分類」が あくまで金額上の対応しかしていないため、生産数量の精度を上げたとしても、 必ずしも結果がより正確なもの(現実に即したもの)にはならないこと だと思われます。

WFに関しては、
http://www.waterfootprint.org
が世界平均的な独自の値をWebを通じて公開しています。 しかしながら、多くは積み上げ方式による推計であり、 主に農畜産物に関する推計値が多くなっています。 綿製品等いくつかの工業製品に関しては最終的に製品になる工場での使用水量と、 主要原材料の生産に必要な水の量、 そして汚濁負荷の希釈に必要な水の量の和としてWFを提案していますが、 汚濁負荷という水の質の問題を無理矢理に量の問題に変換していること、 また、中間投入水が考慮されていない等の問題があります。 丁寧に推計されている品目はごく限られていて、他は単位生産額あたりの WFを各国統計から求めている段階に留まっており、 より包括的で詳細な推計が必要な段階であったと思われます。

本研究 Hoekstra et al. (2007)
(km3/年) (km3/年)
取水量 13.41 13.70
輸出量 3.56 2.10
輸入量 2.17 16.38

オランダのグループによる日本に関するHoekstra et al. (2007)等の推計値と 比較したものが上の通りです。Hoekstra et al.(2007)は、 1997-2001年における工業用水取水量、生産額、輸出額、輸入額の平均から、 工業製品の貿易によるWater footprintを、いくつかの国について 計算を行っています。 表1を見ると、輸出量については本研究による推計値がHoekstraに比べ 約15億m3/年大きく、 輸入量についてはHoekstra et al. (2007) の推計値が本研究に比べ約8倍大きくなっています。

輸出量について、Hoekstra et al. (2007)は 「最終投入水」のみを製品の生産に使われた水として 計算を行っているので、実際に投入されている水資源量を過少評価していると 思われます。特に、日本からは精密機器や電子機器などが多く輸出されていますが、 これら製品に投入される水資源の約8割は「中間投入水」であり、 輸出額が最大である乗用車については、 中間投入水が全体の約9割を占めています。

一方、輸入量については、Hoekstra et al. (2007)は 「輸入製品の生産に海外(輸出国)で実際に投入された水資源量」 で推計しているのに対し、 本研究では「日本の生産技術と水の回収利用技術を用いて輸入製品を 国内でつくったとした場合に投入される水資源量」で推計を行っています。 製品の輸出国の技術レベルが低い場合には、 Hoekstra et al.(2007)が計算したように本研究の輸入量より 8倍近くの水資源量が投入されている可能性はあります。 しかし、一番の理由はHoekstraらが工業製品に 原油やその他原材料を含めていることが考えられます。 この辺りの差の吟味に関しては今後のさらなる課題です。


5. 過去の資料

地球規模の水循環変動、 世界の水資源問題に関する国内外の動向やこれまでの研究経緯については

等もご参考にしてください。


6. その他


掲載紙面一覧

掲載が確認されているのは次の各紙です。


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