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Chapter6:終章

6.1 本研究のまとめと結論

TRMM/PRは本来降雨を観測するセンサであるので, まず降雨層を通過する際の降雨減衰の影響を考慮する必要があるか 調べた.その結果,次のことがわかった.

次に,TRMM/PRが計測した後方散乱係数データをグリッド化し, 地表面物理量が及ぼす影響について調べた. その結果,地表面物理量の影響は入射角ごとに異なることがわかった. 入射角ごとの特徴は次のようになる. したがって,土壌水分観測には入射角が小さい方が適している.このように低い入射角で観測を行なえるセンサは他になく,TRMM/PRが土壌水分観測にとって有利であることがわかる.
そこで,TRMM/PRで計測した後方散乱係数から 土壌水分を推定するアルゴリズムを作成した. このアルゴリズムの概要は以下のようになる. このアルゴリズムを用いて,1998年の土壌水分のグローバルな推定を行なった. その結果は以下のようにまとめられる.

6.2 今後の課題

TRMM/PRによる土壌水分推定のために,以下のような点が今後の課題として あげられる.
グリッド内の不均一性の考慮
本研究では1度グリッドの内部を均一として扱った. グリッド内の土地被覆や土壌水分分布を考慮することは 今後の大きな課題である.
植生からの散乱の解明
本研究では,植生からの散乱を簡略化して扱っている. そのため,土壌水分を推定するアルゴリズムでは, 入射角依存性からその効果を消去した. また,植生からの散乱が卓越していると思われる 入射角18oの後方散乱係数の季節変動の原因は わかっていない. 今後は, 高度な散乱モデルを用いて 植生からの散乱のメカニズムを考慮する必要があると考える.
経年変動の調査
TRMM/PRは1997年11月より運用を開始した現在も稼働中の新しいセンサである. 今後, 1999年以降のデータを入手し,長期的な変動傾向を調べ, 地表面物理量の変動との関連性を調べるのが興味深いと思われる.

6.3 グローバルな土壌水分情報推定についての展開

本研究において,グローバルな土壌水分推定のための 新たな手法を提案できた. グローバルな土壌水分情報の推定手法の確立に向けて, 本手法を改良するほかに, 次のようなことが重要であると考える. 一つは,土壌水分の観測に適したセンサの開発である. 現在あるセンサは土壌水分観測に特化したものではない. 将来的には, 土壌水分推定に最適のセンサを提案し, 実現を目指すことが必要である. また,近い将来としては, 既存のセンサの中から土壌水分観測に適したものを見つけ, 情報を最大限に引き出すためのアルゴリズム開発を進めることが重要だろう. 次に,数値モデルによる推定であるが, オフラインシミュレーションによる推定について より長期的なデータセットの作成が必要である. とくに,衛星観測と同一の期間を対象としたデータセットが望まれる. また,オフラインシミュレーションは外力として与える 気象データの入手・整備に多大な労力が必要と思われるので, オンラインシミュレーションの精度向上も期待される. しかし,最終的には衛星観測と数値モデルを結合する手法が必要である. 衛星観測だけから土壌水分を推定するアルゴリズムを作成することは 難しく,また数値モデルだけから推定した土壌水分の値は 数値モデル自体のバイアスが含まれている 例えば,本研究の5.3で用いた方法も 一つの結合であるがより有機的な結合としては, 同じ時期を対象とした衛星観測と数値モデル計算から 一つの解析値を作る同化手法の構築が望まれる. これは,数値モデルによる計算値を背景場として, 衛星観測の情報を与え,衛星観測,数値モデルそれぞれの信頼性の情報から, 解析値を作成する方法である,大気や海洋の分野では既に この手法によりデータが作成されている. 最終的には,時空間4次元上でのオンラインシミュレーションとの結合が望ましいが, まずは1次元上でのオフラインシミュレーションとの結合が考えられる. また,土壌水分の現地観測も検証データとして重要であり, 継続的な観測が必要である.

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