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Chapter3:本研究で使用するグローバルデータ

本研究では,グローバルデータとして, TRMM/PRが計測した後方散乱係数のほかに, 土地被覆データ, 植生量データ, 降水量データ, および 地表面モデルにより計算された土壌水分量データを用いた. 比較をしやすくするために, 各データは月単位,水平格子1度グリッドのグリッドデータとしてそろえることにした. それぞれのデータごとに, データの入手,作成方法, またグリッドデータへの変換方法などの概略を示す.

3.1 TRMM/PRの後方散乱係数データ

TRMMの処理レベル2のプロダクト2A21を用いた. このプロダクトは軌道データであり, 各軌道ごとに1つのファイルに収められている. また,ファイルはHDF(Hierahchical Data Format)形式であり, ファイルの大きさは10Mbyte程度である. 1ヶ月に500軌道近くのデータがある. プロダクトに収められているデータは 後方散乱係数の他に,

などがある. まず,データをToolkitライブラリ,HDFライブラリを用いて, テキスト化した. 次に,グリッドデータは入射角を区別することとし, 各入射角ごとに月単位,水平格子1度グリッドデータを作成した. 範囲は軌道幅の都合により南北37度までである. (なお,本論文中の図表はすべて南北37度までに統一してある). TRMM/PRでは,1回の走査において,49の角度にマイクロ波を射出する. したがって,入射角は全部で49通りあるが, 実際には,走査の左右でほぼ似た角度の 走査が行なわれており, 0oから 18oまで 0. 75oごとの 25種類と見なすことができる. このように角度を近似することの誤差は0. 1o以下である.

3.2 土地被覆分類データ

USGS(=United States Geological Survey)により作成されたGlobal Land Cover Characterizationを用いた. データの入手先は http://edcdaac.usgs.gov/glcc/glcc.html [←アドレス変更] である. このデータは, NOAA/AVHRRによる1992年4月から1993年3月までの観測およびDEM(Degital Elevation Model)や大陸および領域スケールの既存のデータ等をもとにして作成されており, 全球を解像度1kmで24の土地被覆に分類している. もともとのデータはグーディーホモロサイン図法で描かれており,これを 付属のコマンドgoode2latlonを用いて, 水平格子0. 01度の直交座標系に変換した. 次に1度グリッド内に含まれる10000個のサブグリッドのうち 最も多い土地被覆で代表した. さらに,比較的よく似ている土地被覆分類同士をまとめて, 9分類に再分類した. オリジナルの24分類と再分類した結果の9分類を 表3-1に示し,作成した1度グリッドの土地被覆分類図を図3-1に示す.

3.3 LAIデータ

LAI(total Leaf Area Index=葉面積指数)は, 蒸散量などを算定するための植生量の指標として 用いられている. 葉の総面積(片側のみ計算,枯れた葉も含める)を 地表面の面積で割ったものとして定義される.

3.3.1 1998年データ

1998年分については NASAのDAACからNDVIデータを入手し, それを Sellers et al.(1996b)の方法を用いて LAIデータに変換した. NDVIデータの入手先は, ftp://daac.gsfc.nasa.gov/data/avhrr/global_1deg/ [←アドレス変更] である. NDVIデータは水平解像度1o,月単位のものを利用した. 太陽入射角や雲の影響についてはひととおり補正されている.

3.3.2 LAIデータへの変換法

NDVIデータからLAIデータへ変換する方法は以下のようになる.
1. 補正済みのNDVIデータから,SR(Simple Ratio)を計算する.

SR=(1+NDVI)/(1-NDVI)
2. SRから,FPAR(Fraction of Photosynthetic Active Radiation absorbed by the green vegetation canopy)を計算する.
FPAR=(0.95-0.001)×(SR-SR02)/(SR98-SR02)+0.001
ただし,SR98は,植生タイプごとに定められたNDVI98に対応するSRの値であり, また,SR02は,砂漠の場合のNDVI02=0.034に対応するSRの値である. なお,FPARの上限は0.95,下限は0.001とする
3. 植生タイプごとに定められたFPARとLAIの関係式から,LAIを計算する. この値は,green Leaf Area Indexであり生きた葉のみを対象としたものである. これをLAIgと表す.
(a)均一に分布した植生の場合:
LAIg=LAImax(log(1-FPAR))/(log(1-FPAR)max))
(b)塊状に分布した植生の場合
LAIg=LAImaxFPAR/FPARmax
となる. LAImax,FPARmaxは, 植生タイプごとに定められるそれぞれの最大値である.
4. 同様にして計算された前月の活きた葉のLAI(LAIg0とする)から, 今月枯れた状態で植物に付着している葉のLAI(LAIdとする)を計算できる.
LAId=max(0.0001,LAIg0-LAIg)
5. LAIg,LAIdとstem area indexLAIs(一定)を加えたものがtotal Leaf Area Indexとなる.

ISLSCPデータ

また,ISLSCP Intiative-1 CD-ROMとして 1987年,1988年の各種地表面物理量が推定されている (Meeson et al, 1995) . LAIについては, 同様の方法で 月単位,水平格子1度で与えられている.
1998年のデータはもとのNDVIデータの補正など データの信頼性に問題がある. そこで,本研究では年平均として扱う場合には 前者の1998年のデータを利用したが, 月平均データとしては, 後者のISLSCPの1987年のデータを利用した.

3.4 降水量データ

TRMMのプロダクト3B43に収められている月単位水平格子1度の降水量推定値を用いた. このデータは TRMM/PR,TMIの観測結果に TRMMアルゴリズム開発者たちが作成した マイクロ波放射計SSM/Iによる降水量グリッドデータ, NOAAのCPC(気候予測センター)または GPCC(Global Precipitation Climatology Center)が 作成した 雨量計による降水量グリッドデータ, を組み合わせて降水量を推定している. このデータは NASA DAAC(http://daac.gsfc.nasa.gov/) から入手した.

3.5 地表面モデルで計算された土壌水分量データ

地表面モデルは 水収支の式(3.1)と 熱収支の式(3.2) を解くことで,地表面の温度・土壌水分量・大気への水や熱の輸送量などを予測する 数値モデルである.

RN-G=H+λE+Cs(Δ Ts)(Δ t) (3.1)
(Δ W)(Δ t)=P-E-R (3.2)
ただし,RNは正味放射量,Gは地中への熱流量, Hは顕熱,Eは蒸発散量,Csは地表面熱容量,Tsは地表面温度, Wは土壌水分総量,Pは降水量,Eは蒸発散量,Rは流出量 である. 現在使われている地表面モデルの多くは, とくに植生の効果を組み込む方向で高度化している. また,土壌水分についても土壌を鉛直方向に, 蒸発に影響する表層,植物を通した蒸散に影響する層, さらに基底流出する層など 数層に分け各層ごとに表現されていることが多い. GSWP(Global Soil Wetness Project, 全球土壌水分計画)では, 複数の地表面モデルに共通の気象データ--- 前述のISLSCP Initiative-1 CD-ROMを利用--- を与えた全球1度グリッドのオフラインシミュレーションにより 地表面モデルの検証や数値モデルによる土壌水分分布の推定を行なっている (沖ほか、1997, 西村、1998など). 本研究では,気象庁(日本)で使用されている 地表面モデル(SiB)により計算された 表層第1層の土壌水分のデータを用いている. データは10日ごとの期間平均値となっていたものを平均して 月単位にそろえた.

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