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タイトルから興味深いと判断。MRR.
要旨:
バルト海での数年間の観測。ディスドロとの比較。雨量が大きいとき、ディスドロの粒径分布の形状係数(つまりZ-R関係)は高さに依存することが観測された。したがって、場所の違いを考慮すると、地上雨量を元にZ-R関係式を作ると、気象レーダでは降水量は過小評価する傾向になる。6/4’7−6/5’7追記:本編を読む前の疑問点
・ MRRの降水量は大きな雨(25dBZ〜)ではそもそも雨量を過大評価する(東京の場合)。
地上直近のデータは用いていない模様。融解層から下の、Rの変化に注目。従来のZ-R関係式では、融解層以下は変化がないとしていたので、融解層以下の変化を見ることは意味がある。6/22’7
また、この研究は物理量の絶対値の議論よりも1500m〜200mの高度方向の変化に重きを置いている。9/20’7
・ 「形状係数の高度依存」とは?雨滴の成長に伴って、指数関数の傾きが変化することか?
p1934l
・ レーダの観測高度から地上までに「過小評価」といえるくらい、雨量が変化することがあるのだろうか?⇒図3(a)1分平均Zingstにおける2000年の観測結果。特に20mm/hを超えるような大きな雨(186ケース)について1400m〜200mまで単調減少。ZR方式の問題を議論している。
・ MRRの観測限界に対して非常に気を配っている(読後の感想)。
MRRのデータ処理、平均化の誤差などについても補足で議論6/22’7
3章
鉛直方向のrrの変化を見る。降雨のタイプ分けをrrで実施。表3に記述。0.02-,0.2-,2.-,20-mm/hの4つの分類。強い降雨の場合は上空と地上が一致しない場合があるので、鉛直方向に相関関数を用いて関係を調べた。半値幅(相関係数が0.5となる高度)は参照にする高度によって異なる。そこで本研究では特定の参照高度を用いず、平均的なR分布を元に分類した。6/26’7
4章 結果
図3(a)Rrの鉛直分布。弱い雨は負の傾き(高度が高くなるにつれて雨が小さくなる)を持つ。強い雨は上空ほど雨が強い。減衰補正が効きすぎ、の可能性を示唆。大気の密度を考慮すると、雨の高度方向の傾きは小さくなるはず。Zと雨水量の不一致はDSDが上空では粒径の小さいほうにずれていることと関連する。ZはDの6乗、雨水量は3乗に比例するので、水の量が同じであれば、Dが小さくなると、Zはかなり小さくなる。
風速にη(v)加重平均速度がある。ドップラ速度の1次成分(η加重した、通常のドップラ速度)。他に、環境の風を計算している。6/26’7
環境の風はηの最大から最大/eの領域で加重平均を行って求める。ドップラ速度vdと環境風veは、対称なη分布では同じ、非対称な分布では違う値を示す。
図4にドップラ速度と環境風の分布を示すが、降雨が大きいとき、ドップラ速度は高度が高くなるにつれて、顕著に減少する。6/28’7
図5では算術平均と調和平均の比較を示す。確かに、算術平均では分布が広くなっている。(また、図から上空ほど1500m⇒1000m⇒300m分布が広がっている様子が見える)
5章 結論
解析対象地区のほとんどの雨を説明する弱・中降水については地上で解析したZRを上空1500m程度へ拡張しても問題ないだろう。強雨については雨滴分布が変化している。融解層についてはあまり考慮していない。層状性、対流性という分類もありえる。
補足A:回帰手法と誤差解析
FMCWレーダでは周波数の変化を距離情報として取り扱っている。したがって、受信感度(system gain)が周波数に依存するので、受信電力が距離に依存するということが起きる。だから、鉛直分布を回帰手法により解析する場合には、レーダの受信機の伝播関数g(f)の精度が制限となる。白色信号を入力して平均を比較するとg(f)=g(f)/<g(f)>が±0.05dB以内で安定することが示された。(8/21’7)。後方散乱断面積を求めるには1/z^2で距離補正(zは高度)をして、a(3)で示す降雨減衰補正をしている。最下層の2つの高度は(z<3Δz)は解析の対象から除いた。レーダの受信強度を扱いやすくするための簡略化がここでは適用できないので(おそらく、信号が飽和/スケールアウトするのでby kos)。したがって、近距離効果(?near-field effect)(すなわち、1/z^2から外れること)は無視した。MRRのアンテナでは20m高度くらいでこの効果はなくなるので。
降雨が観測されるのは、観測時間のわずかの時間であるので(5-10%くらい)、信頼できる雨の抽出アルゴリズム(PDA:precipitation detection
algorithm)が必要である。そうしなければ、受信機のノイズが積算降水量に影響を与えてしまう。ここでのPDAは降水がないときに測定した、参照ノイズスペクトルを適用した。受信したスペクトル線のうち5つの最小値が参照ノイズスペクトルを2.6dB超えた場合に、その高度で降水があったと判断した。この値から表2に示す最小受信感度を導いた((z
=1000 m,△z=100 m,
t=60 s)のとき-2 dBZ)。この手法は高度が高くなり、平均時間が短いと間違い(空振)が大きくなるが、その問題は1500m以下、平均時間10秒では問題ないと考える。8/22’7
a)粒径分布の回帰手法
a1)粒径分布
粒径分布は、反射強度ηを後方散乱断面積σで除して求める。往復の降雨減衰l(z)を考慮している。a(3)参照。後方散乱断面積はミーの理論に基づきMorrison and Cross (1974).によって求めた。粒径DはGunn and Kinzer
(1949)に基づく、Atlas et al. (1973)の変換式でvから計算した。上空のvはFoote and du Toit (1969)による大気密度と速度の関係、および、US標準大気を利用して求めた関係式により計算している。図A1は単一粒子のレーリーとミーの違いを示す。
スペクトルの計算のステップ(分解能)は△v=0.191とドップラ速度で等間隔としているので、粒径では等間隔にならない。分解能の粒径依存を図A2に示す。
ドップラ速度vとDの解析範囲を図A3に示す。FFTの解析周波数が限られているので、Dの最大値がギザギザしている。
a2)ディスドロメータとの比較
図A 4はMRRの粒径分布を音響式ディスドロメータ(JW)と光学式ディスドロメータ(OD)と比較した。2003年の4月,Westermarkelsdorfにおける5時間にわたる降雨を対象として、降水強度(mm/h)と中央直径(質量平均直径?,mm)を比較した。8/23’7
a3)減衰補正
減衰補正はKunz(1998)に基づき粒径ごとに消失係数を求めて高度ごとの減衰係数を求めた。サイト近傍から受信電力を補正し、次の高度の補正値がN(D,z)corとして求まる。経験から往復の減衰量が5dBより大きくなると発散する。そこで補正係数が1.4を超えると、データ無効としてフラグを立てた8/24’7。
図A6:ミーとレーリーの比較
図A7:減衰係数の高度分布
b)粒径分布の積分変数
b1)レーダ反射強度因子ZとZe
ZはD^6で定義された値。Zeは観測値から求められる値。積分の範囲は、a(1)で示した範囲(受信感度で決まるDminと落下速度が推定可能なDmax)。
b2)雨水量(降水量)LWCと降水強度R
それぞれの値は粒径分布より推定可能である。
b3)Zから求めた降水強度Rz
上記のb(2)は粒径分布を仮定しないで求めている。粒径分布を仮定すれば(よく用いられる)Z-R関係を元に、降水強度を求めることが出来る。RとRzの比較は本質でないが、Rzを元に高度変化を調べても本研究の結果は変わらない8/27’7.
b4)平均落下速度
落下速度はいくつかの定義がありますが、水のフラックスの速度で定義する方法がある。ただし、新たな情報が得られないので、ここでは示さない。
(A19)vt降水強度を雨水量で割る
広く用いられるのは反射強度η(v)で重み付けした平均速度で、平均ドップラ速度と呼ばれる。レーリーの領域ではD^6となるので大粒子の落下速度が強調される。
(A20)vd:折り返し速度内で積分。ここでは12.3m/sである。
さらに、ドップラスペクトルの極大値の速度(the velocity of the peak of the Doppler
spectrum)を考える。極大値はそれほど明確ではない場合があるので、積分範囲を極大値の周辺でとめてしまう。
(A21) ve(z):高度ごとに積分
積分範囲はη(v_upper)=η(v_lower)=η(v_max)/eとなるような速度範囲である。対称性の高いスペクトルではvdとveはよく合う。vdとveの違いはドップラスペクトルの非対称構造を明らかにする。
c)大気密度の効果
US標準大気、MP粒径分布を仮定して、調和平均した場合の降水強度に対する大気密度の効果を調べた。スペクトルは粒径で0.25〜5.8mmで積分した。結果を図A8に示す。求めたパラメータは平均落下速度vdを除いて負の傾きを持つ8/28’7。
d)平均鉛直風と擾乱の影響
d1)概要
式(A5)(ドップラ速度と高度から粒径を求める式)は静止した大気でのみ有効である。残念ながら単一のK帯レーダでは独立した風の情報を得ることが出来ない。K帯の降水スペクトルから鉛直風を評価する手法はいくつかあるが(Rogers1964、Hause&Amayence1983)、これらの手法の評価はおこなわれてきていない。近くの観測塔での鉛直風と比較してみたが、実際の風はかなりかけ離れている。したがって、鉛直風について補正することは、少なくとも、ちいさい、あるいは、中程度の擾乱がある場合は、MRRの観測値を劣化することになるだろう。したがって、鉛直風0を仮定して、観測値を積分する際にこの仮定がどのくらい影響を与えるかを評価した。鉛直風に対する定量的な感度はDSDの形状だけでなく、解析するスペクトルの範囲にも依存する。決まった速度でスペクトルを切り捨てることは風の誤差をさらに悪くしたり、弱めたりする。
平均鉛直風と擾乱の変動の影響を評価するために正規対数相対平均誤差LEMpとLETpを導入した。
(A22)LEM:平均鉛直風の誤差、(A23)LET:擾乱の標準偏差の誤差
ここでPwは鉛直風速がwのときのPの評価値、Pσ_wは分散σw^2で平均0の擾乱があるときのPの評価値である。捕足Aのd2)d3)で示すように、LEMとLETは現実的なw、σw^2についてはほぼ定数である。
本研究での関心は、絶対値ではなくて高度変化である。wに関連する不確定性はありそうな傾度を持つ正規化した誤差を乗じることで評価した。
最初は高さ方向に線形の依存性を仮定し、次に1kmの高度範囲で平均的な傾度を求めた。8/29’7
鉛直流の傾き±10cm/1km以内というのは保守的な(伝統的なconservative)評価であると仮定している。同様に鉛直流の分散も±0.2(m/s)^2/1km以内であると仮定している。後のほうの評価は下層数百メートルの長期的なレーダ観測との比較によって支持されている。分散の平均値0.2(m/s)^2と分散の標準偏差0.2(m/s)^2は(Peters&Fischer,2002)は中立に近い大気で観測されたものである。擾乱が1.5km高度でなくなる条件では∇(σw^2)=-0.2m2/s2/kmと仮定できる。平均鉛直風と擾乱の効果を表A1にまとめる。[越田による注:鉛直流wは実測がないはずなので、おそらく、物理量を算出する際のvに鉛直流wを与えてPwを評価したものと思われる。Pσ_wは±σwの範囲で、η(v)を再配分して評価したと考える]8/30’7
鉛直風による誤差はマーシャルパルマーにより粒径分布を仮定して観測値Pを計算することによりシミュレートした。MP分布による降水強度はA16(観測した粒径分布の積分)でもA18(ZR関係式)でもない。Torrers他(1994)によれば、R,Rmp,Rzは相互に再解析不可である。だから、雨滴定数a,b(B,β)は最小自乗法であわせた。a=250,b=1.42となり、本解析ではこの値を用いている。
d2)平均鉛直風
MP分布であるA24をA1,A2,A4(反射強度と粒径・個数の関係式)を用いてドップラスペクトルに変換した。ドップラスペクトルは5つのステップで±0.76m/s幅の鉛直風にずらして対応させ、平均鉛直風を再現した。9/3’7
結果は図A9に示す。降水強度、雨水量、減衰補正係数はwの広がりによる誤差が降水強度の広い範囲で見ることが出来るので、あまりRmpに依存していない。降水量は上昇流がある場合に過小評価される傾向にある。減衰係数は10mm/hより大きいところで3dB/(m/s)であった。Zはwにあまり依存しない。下向きの鉛直流があると大粒子が計算範囲vmaxを超えてしまうので過小評価となる。
(p1945r,内容が読み取れない)Rz/Rはw=0において1となるべきである。ZR関係式で雨滴定数のa、bはこの目的のためには合わせていなくて、むしろRz/Rmpが1となるようにあわせている。だからRz/Rの平均は1から外れており降水強度によって波打っている。本研究の目的ではRz/Rの鉛直傾度の回帰誤差を比較するので(p1934r)、平均値の1からのずれには関心がない。保守的な見積もりで、表A1に示したように、wに対する最も高いRz/Rの感度はLEM≒-3.8dB/(m/s)であり降水強度が10mm/hより大きいところでおきる9/6’7。
(下降流:wがマイナスのときは短時間で粒子が落ちてくるのでZRで求めた降水強度より小さくなる。RZ/Rは1より大きい)
図A10:音響式風速計で測定した鉛直風と、その鉛直風により補正したRと実測のRの比の関係
ほぼ、Rcorr/Runcorは線形になる。変化率は4.3dB/(m/s)とシミュレーション【3.4dB/(m/s)】に比べて若干おおきい9/7’7。
d3)平均が0の擾乱
平均が0でも渦があると次の2つの効果で測定値に影響を与える。1)降水強度と鉛直風の相関。2)鉛直風の回帰誤差が非線形であること。鉛直風と降水強度の相関は正:上昇流が強いと対流性の降水が多く発生する、負:摩擦で生じる下降流が発生して降水量が少なくなる、の両方がありえる。9/10’7
RzとRの分布は全体的な粒径分布、減衰補正の取り扱い、レーダ定数に依存するが、それらの効果は分母・分子ともにでてくるので、Rz/Rにはあまり寄与しないと考える。だから、R/Rzというのは粒径分布の変化や、ZR関係式の高度方向の変化を調べるのに用いる。(図A11によれば、擾乱はRz/Rに大きく影響しているが、高さの変化を見る場合は用いてよいだろう、と考える)9/11’7
捕足B:降雨データを平均するときの落とし穴
a)スペクトルの平均と降水パラメータ
平均の手法が変わったら、得られた降水パラメータはかわってくる。例えば、スペクトルの平均を取ってから降水パラメータを計算する手法と、すぐにスペクトルから降水パラメータへの変換をおこなって、降水パラメータで平均する手法がある。我々は即時にスペクトルの平均を6秒ないし56秒で行っている。それぞれは10秒ないし60秒の繰り返し期間に対応している(4秒のデータ転送時間・計算時間を含む)。それぞれの平均期間でパワースペクトルの数は150ないし1400である。夏について残りの平均は降水パラメータの高度で行った9/12’7。
落下速度vdは正規分布(normal distribution)を示す。このときは算術平均というのは自然な選択である。R,LWC,Ze,Z,Zrは対数型の存在確率分布を示すので調和平均という選択肢もあったが算術平均した。理由は、ゼロや負の値が合った場合に調和平均がおかしくなるからである.9/13’7
捕足C:擾乱がある場合の平均ドップラスペクトルの、幅とエネルギー
粒子の落下速度のスペクトルは鉛直流の影響を受けるので、それらを分離することは難しい。停滞する大気中の粒子のスペクトルをガウス分布で与えて、算術平均を取るとエネルギーは保存するがスペクトル幅は広くなる。調和平均を取るとスペクトル幅は擾乱の影響を受けないが、エネルギーは減少する。(Why?)現実のスペクトルはガウス分布ではないので、調和平均が完全であると主張するつもりはないが、調和平均と算術平均を比較すると調和平均の方が、擾乱の与えるスペクトル幅への寄与を教えてくれると考えている。8/17’7
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