はじめに

 以下の資料は,1999年6月18日に行われた東京学芸大学自然史ゼミで筆者が配布した資料−MS Word97形式−をHTML化したものです.原文はA4白黒コピー2枚です.(→参考:東京学芸大学自然史ゼミWeb Site).

また,当日発表に使用したOHPの内容も公開しています:

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火山山麓湧泉の世界

安形康(東大・地理・研究生)


はじめに

 最初に火山山麓湧泉についての基礎知識を説明する.なお,筆者の主な研究成果(中心となる発表内容)については別紙に添付した以下の文献を参考にされたい.そして最後に,その研究成果に伴って新たに浮かび上がってきた問題を紹介する.

安形康(1999):日本における火山体の地形特性と湧泉湧出量の関係.地理予,55,294-295

なお,最近次のレビューが出たので参考になる:
谷口真人(1998):火山における地下水涵養と流出.日本水文科学会誌,28,105-110


ポイント1. 火山は火の山であると同時に水の山である

 火山,とくに第四紀火山は貯水能力が高い地層が内部に分布することがよくある.しかもそれがほぼ不透水とみなせる地層と互層になることが多く,結果として貯水能力が高い地層に大量の水をためると言われている.また周辺の山より突出してそびえていることが珍しくなく,山体全体の降水量も多いといわれている.

 河川流域に第四紀火山が存在すると,渇水時比流量が大きくなることは古くから指摘されている(ブナ林が本当に「緑のダム」であるかどうかは知らないが,火山が「黒いダム」であることは疑いのない事実である).火山体水文学を探究することは,日本島の水文特性を理解することにあたって不可欠の一歩である.


2. 火山体の水に関する研究

 戦後の火山山麓開拓時に,地下水調査がよく行われた.しかしそれを広くまとめたDBはYamamoto(1995)まで入手は困難だった.また,火山毎にあまりに様相が異なるため,多くの火山を俯瞰した研究(比較火山体水文学とでも称することができよう)というのは進展が無かった.

 一方,最近ではインテンシブな水文観測により,山体内部への地下浸透量を見積もる研究がよく行われている.これは少数の火山について集中して研究が行われている.しかし,相当の「目利き」が長い時間をかけて観測する必要があるため,どうしても広域に渡る研究は難しい(もちろん,この研究の流れ自体は今後もずっと継続させていく必要はある).


3. 日本の巨大湧泉は火山山麓がほとんど

 筆者がWWWで公開している湧泉データベース「名水大全」や,Yamamoto(1995)による.また,湧泉をよく出している火山の周辺の河川ほど流況が安定している(保水力が高い).つまり,湧泉湧出量の多寡はその火山の水文特性を端的に表す一つの指標となっている.湧泉のDBはすでにYamamoto(1995)などがあるのだから,まずここを取っ掛かりにして比較火山体水文学に取り組むことが可能であり,また現在水文学者が取り組むべき責務でもある.

 そこで,「どのような火山ほど湧泉湧出量が多いのだろうか」という問いが重要な研究課題となる.


4. 結果:A1型火山では侵蝕が進んだものほど湧泉湧出高が小さい.これは不思議なことである

 一見当たり前のように見えるが,実はそうではない.火山山麓湧泉の湧出水はきわめて深いところをゆっくり流れてくるといわれているが,それならなぜ,地表面近くに限られる「谷の発達」がこれらの水の量に影響するのだろうか.

 ここで一つの仮説は,富士山・岩手山・浅間山などの例―新期溶岩流の末端にきわめて大規模な湧泉群がある―からの推測によるものである.つまり,地下ふかくをゆっくり流れてくる「教科書的」な流れのほかに,このような地表面近くの新しい溶岩流中にも,大規模な流れが存在しているのではないかということである.目下この仮説について検討中である(湧泉の位置についての見当・最近東大でも環境が整ってきた地下水シミュレーション等を用いる).

 なお,A2,B型火山についてはまだ検討以前の段階である.おそらくは来年以降の仕事となるであろう.

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agata@iis.u-tokyo.ac.jp