Rhône AGG ドキュメント

第二章:Rhôneデータベース


Rhône河は地中海に注ぎ込むヨーロッパ最大の河川です.その流域はフランス南部の大部分を占め,多様な気候条件(大陸性・地中海性・高山性)にあることと地表面の多様性に富むこと(山岳裸地・森林・農耕地そのほか)が特徴です. Rhône河流域の外形を,フランスおよび西欧諸国との相対位置で表したのが図2.1です.この領域に対して,地表面状態・地下の諸条件,そして大気フォーシングデータが,気候モデル・水文モデル研究のために用意されています. 大気フォーシング・地表の植生および土層パラメタデータベース・河川流量および積雪深の観測値については,Habets et al. (1999b), Etchevers et al. (2001), Golaz et al. (2001), Ottlé et al. (2001) に詳しく記載されています.

fig 2.1

図2.1 Rhône流域モデル領域(強調部分).

大気フォーシング

Rhône河の流域を1471個のセルに分けた8kmグリッド(図2.2)に対して,大気フォーシングデータが与えられています.このフォーシングはRhôneアルプスの大きな起伏にも対応できるようにデザインされているSAFRAN(Systême d'Analyse Fournissant des Reseignements Atmosphérique a la Neige)解析システム(Durand et al. 1993)によって計算されたものです. 8kmグリッドで設定されている地形を図2.3に示します.このシステムにおいて用いられている大気データは,

で,さらに合計1500点の地上雨量観測点も活用されています. Rhône流域は249個の均質な気候区climatic zoneに分けられ,各個が固有の気候値を持っています.図2.4に各気候区(境界線)・雨量観測点(+)・気象観測点(▲)の位置を示します..

fig 2.2

図2.2 SVATスキームで用いられるグリッド.Rhône河流域内に,8kmグリッドが合計1471個設定されている.

fig 2.3

図2.3 Rhône河流域モデル領域における,8kmグリッドにおける地形データ.

SAFRANは,各気候区に対して6時間毎に各大気変数の鉛直プロファイルを計算します.そして,その結果を時間的に1時間単位に,空間的に各グリッドに対して補間します. (降水に関しては,)日降水量が,「観測値」と「気候値から求められた降水量の高度依存性」を用いて求めされます.そしてそれを観測された湿度の日内変化および天気の種類(これも気候値)とを用いて1時間単位に配分しなおしています. 降水は,0.5度アイソサームを用いて,降雨と降雪に分類されています(詳しくはHabets et al. 1999b参照).

fig 2.1

図2.4 SAFRANで大気フォーシングを求めるために用いられている各気候区の分割・日雨量観測点(+),気象観測点(▲).

下向き放射については,Ritter and Geleyn (1992)の放射伝達スキームとECMWF解析・cloudiness解析を用いて求めています. このフォーシングデータから,3時間ごとの値を抽出し,SVATモデル用のデータを作成しました.与えられているデータは,

また,地表気圧(p: Pa)は標高のみの函数となっていますが,モデル上での扱いが容易になるように,他のフォーシングデータと同様に各点各時刻における値が与えられています 降雨と降雪はすでに分けられているため,モデル内でこれらを分割するときの問題には直面せずに済みます.これらフォーシング変数の定義・正負規約・単位にはALMA規約に従ったものです.

フォーシングは,17年間分のもの(1981〜1988)が用意されていますが,今回の実験用には4年分(1985年8月〜1989年7月)のみを用います.この期間は,GSWP(Dirmeyer et al. 1999)データベースで対象となっている期間(訳注:1987,88年)と重なるように選ばれています. 期間の始まり・終わりは夏です.これは,山岳地における積雪のイニシャライズが良好に行われるように配慮したためです.

対象となる4年間における平均液体降水量・平均固体降雨量を図2.5に,その他5種類のフォーシング(および総降水量)を図2.6にそれぞれ示しました. また,1985年8月〜1989年7月におけるフォーシングの領域平均月値を図2.7に示しました. 1985〜86および1986〜87の冬季は,いずれも1981〜1998年内における最も寒かった冬季ベスト3に入っている期間です(もう一つの極めて寒かった冬季は1984〜85シーズンです).

fig 2.5

図2.5 4年間(1985年8月1日〜1989年7月31日)平均の降水データ:Pl (液体降水:100〜2100,143間隔),Ps (固体降水:0〜1500,107間隔).

fig 2.6

図2.6 4年間(1985年8月1日〜1989年7月31日)平均の降水データ: Ta (-6〜15℃,1.5℃間隔), P (5000〜2500kg m-2,143間隔). Va (0〜4m s-1,0.29間隔), qa (2〜8g kg-1,0.43間隔), Rg (100〜240W m-2,10間隔), Rat(220〜350W m-2,9.3間隔),

fig 2.7

図2.7 4年間(1985年8月1日〜1989年7月31日)にわたる各フォーシングの月変動.

土壌および植生パラメタ

土壌パラメタおよび植生パラメタも,大気フォーシングと同様の空間解像度で与えられています. 土壌パラメタについては,まず土壌の「タイプ」をINRA土壌データベース(King et al. 1995)の土壌テキスチャ特性(砂および粘土の割合)を用いて表しました.この砂および粘土の割合の分布を図2.8aおよび図2.8bにそれぞれ示します.

fig 2.8a

図2.8a 各グリッドボックスにおける土壌中の砂の割合

fig 2.8b

図2.8b 各グリッドボックスにおける土壌中の粘土の割合

次に,植生パラメタはthe Corine Land cover Archive (Giordano et al. 1990)およびAVHRR/NDVI インデクスの2年間の値 (Champeaux and Legléau, 1995)を用いて決定しました.ここでは,10種類の地表面タイプ(状態)を考え,各グリッドボックス内において各地表面タイプが占める割合を用いて,グリッドボックス平均値を決定しています.10種類の優占地表タイプは表2.1に対応しています. 各グリッドの優占地表タイプ−裸地(9)・落葉樹林(10)・針葉樹林(8)・草地(7)・穀物耕作地(3,5)・穀物以外の耕作地(1,2,4)・草地耕作地混在(6)−を図2.9に示しました.

fig 2.9

図2.9 各グリッドにおける優占地表タイプ:1=耕作地A,2=地中海性耕作地,3=穀物耕作地A,4=耕作地B,5=穀物耕作地B,6=草地耕作地混在地,7=草地,8=針葉樹林,9=裸地,10=落葉樹林.

それぞれの地表クラスについて,各植生パラメタの最小値と最大値が決まっています.これらの値と月毎NDVI値を用いて,粗度・植生被覆率・LAIの変化を決定しています.よく似た地表タイプ(例えば穀物耕作地AとB)が異なる変化を示すこともあり,これはNDVI観測値が異なるからです.データは1年分(訳注:の月データ)のみが与えられ,参加者はどの年についてもこの値を与えてモデルを走らせます.データの詳細については, Habets et al. (1999b) および Etchevers et al. (2001) を参照してください.

表2.1 Rhôneモデル領域で定められた10種類の主な地表タイプ

Class Description
1 Crops A
2 Mediterranean crops
3 Cereals A
4 Crops B
5 Cereals B
6 Crops and Grassland
7 Grassland
8 Coniferous forest
9 Rocks
10 Deciduous Forest

分布型水文モデルのデータ

分布型水文モデルの実行のために,地表および地下における水文学的グリッドも定義されています.地形データを用いて流路網およびセル間の水の輸送にかかる時定数を決定しました(Golaz 1999).流域の出口までの水の輸送時間の最大値について,MODCOUモデルおよび流量実測値を用いてキャリブレーションを行っています.

fig 2.10

図2.10 MODCOUにおける地表および地下のグリッド.

地下水面の変化はtransmissivityと貯留係数の函数であり,これらの値は実測流量を用いてキャリブレーションされています.MODCOUは2層モデルであり,そのグリッド網は図2.10に示されています. 地下水レイヤはRhône河およびSaone河河道近傍の帯水層を表現するように出来ており,流域の約21%の面積を覆っています.一方表面流レイヤは大気フォーシングと対応するグリッド体系をもっており,全部で27054のグリッド要素があります.

検証用データ

Rhône河流域における実験の検証用データセットとして用いることができる,二組の観測データセットがあります. その一つは,フランスアルプスに設けられた24箇所の日積雪深観測サイトで,SVATの雪モジュールが計算するモデルの積雪深や春季における融雪のタイミングを検証するのに用いることができます.これらサイトの位置を図2.11に示します. 一般的には,検証はこれらの観測をある点ないし領域に対応させることによって行われるでしょう.そしてシミュレーション結果の積雪は8kmグリッドの平均値に対応するでしょう. 積雪深観測値を用いるこの方式は,明らかに次の欠点を持っています:シミュレーションの中で用いられる積雪密度のモデル毎の違いは積雪深計算に大きな影響を与えるという点です.水文学的視点から見ると,積雪水当量(Snow Water Equivalent, SWE)こそが観測とモデルの比較を一貫して行うための基礎となりますが,しかしながらSWE自体は観測されていません. 以上のような欠点があるにしても,積雪深観測値を用いることは,融雪のタイミングを検証することができるという意味でなおも有効な手段です.

fig 2.11

図2.11 日積雪深が得られる観測ステーション.

もう一つの検証用データセットは,モデルの流出量を検証するために用いることができる,145箇所の河川流出観測値です.これらのうち,流域面積が大きい順に10箇所を図2.12の左側に示しました. また,おもな流路と地形の関係を図2.12の右側に示しました.詳細については,Habets et al. (1999b)および Etchevers et al. (2001)を参照してください.

fig 2.12

図2.12 左:Rhône河流域内における流量観測点のうち,流域面積の大きい10地点.右:主な流路と起伏の関係(Habets et al. , 1999bより)