ALMA:バージョン1から2への変更点
バージョン1から2への変更点を以下に示します.
過誤訂正および拡張
- 降雪強度(Snowf)の最大値を0.002から0.006kg/m2/sにした.これはRhône川流域における観測事実に基づく変更である.
- 凍土の凍結融解深の最大値を5mに上げた.従来値の2mは小さすぎたからである.
- ALMA入力規約を改定し,風速のみが与えられていてもよいとした.既存のコードにこの変更を組み込むのは容易であるので,ソフトウェア・バザールにおいて例を示した.
- DelSoilHeatの名称および定義が誤っていた.これをDelSurfHeatという名に変更し,定義を「積雪のない領域における貯留エネルギーの変化量」と再定義する.つまり,もし扱っているLSSがキャノピーの熱量を計算しているならば,この量は地中貯熱量のみならずキャノピーの貯熱量をも含んだ値としなければならない.すなわち,これはDelColdContと補完関係にある値となった.なお,DelSoilHeatの計算に当たっては,もし凍土が存在する場合にはその相変化にともなうエネルギー放出/吸収も考慮に入れなければならないことに注意.
- DelSurfHeat,DelColdContの単位が,「積算値」という指定に合っていなかった.これをJ/m2と変更する.
別法として「積算値」指定だったのを「平均値」指定に変更するという手法も考えられるが,こうするとDelSoilMoist,DelSWE,DelSurfStoreの規約も変更を余儀なくされる.
- 表4を2点変更し,土層中の水の総量が一つの変数にのみ格納されるようにした.
すなわち,バージョン2においては土層中における全ての態の水の総量を示す変数がSoilMoistである.そして,各態における水の量を表すために,次の二つの変数を導入する:
- 液体である水の割合=SMLiqFrac
- 個体である水の割合=SMFrozFrac
この二つの変数の単位は,厳密には"kg/m2/kg/m2"となるが,要するに無次元であると考えてよい.
- 可能蒸発散量を新たに導入した.これは可能蒸発散量が各スキームが蒸発散量を計算する方法に大きく依存する値であるので,その値を求めるためである.この値は,空気力学的抵抗を除くすべての抵抗をゼロにした時の(仮想的な)蒸発散量として求められる.多くのモデルにおいてはこの値はPenman-Monteith可能蒸発散量と合致しないが,このズレが診断変数の一つとなることは疑いがない.
- 地表面気温の平均を取る方法について,記述を改善した.
- 表O.6において,オプショナルな出力変数として地下水位の値を加えた.
- リモートセンシングデータにより検証されるデータのリストとなる新しい表を追加した.
積雪中の液体水に関する診断変数の導入
- 積雪中の液体水からの蒸発量をEvapSnowとする.
- 積雪のない地表面からの昇華量SubSurfも考慮に入れることにより,水収支が完全に閉じるようにした.この値は通常は小さいフラックスであり,QCで指定した有効範囲はおそらく過大評価となっている.
- 積雪中に液体水がある場合,DelColdContの計算に当たっては相変化も考慮に入れなければならない.
- 積雪から流れ出す水の量を表す変数Qstを追加した.積雪中の液体水を扱わないLSSに関しては,このフラックスは融雪流出フラックスに等しくなる.そうでない場合,つまりモデルが積雪中の液体水を扱う場合は,このQstと融雪量の差が,積雪中から流れ出た液体水(もともと液体だったもの)の量を表すことになる.
- 融雪量Qsmの対照となる,再凍結量Qfzを定義した.これは,積雪中にあった液体水のうち再び凍結して積雪中に取り込まれた分の量である.積雪中においては両方の向きの相変化が同時に進行しうるため,この値は「負の融雪量」と同義にはならない.
- 積雪中の液体水の割合SliqFracを新たな診断変数として導入した.なお,これにより積雪当量(SWE)の定義は変わらず,「積雪中に含まれる全ての水の量」のままである.しかし,上記の割合を導入することにより,積雪中における液体水と固体水を分けて考えることができる.この値の単位は,厳密には"kg/m2/kg/m2"となるが,簡単のために無次元量と考えてよい.なお,積雪を複数の層として扱うLSSがあるため,これは3-D変数となる.
- 一つのグリッドセル内において降水(降雨と降雪)が積雪のない地表面と積雪面上にどのように分布するかという計算はLSSごとに異なるので,この値を保持しておく必要があると思われる.そこで二つの変数RainfSnowFrac,SnowfSnowFracを導入した.
積雪中の3次元構造
- 積雪の鉛直構造を扱うLSSが登場し,三次元的に積雪を扱うことが行われるようになったため,変数SnowTについては再定義が必要となった.従来は積雪上面(大気と接する面)の温度のみを記述していたが,多層積雪モデルにおいては雪の温度の表現はもっと複雑である.そこで,積雪中における温度の表現として,変数SnowTProfを導入した.単純な一層積雪モデルをもつLSSの場合,実質的には従来の規約と変化はない.SnowTProfは,SnowTと同じ値をとることがありうる.
- 積雪当量SWEもまた3-D変数になった.当然ながら,一層積雪モデルのLSSの場合は従来の定義と実質上変わることはない.
- SnowDepth,SliqFracもまた3-D変数とした.一層積雪モデルをもつLSSの場合,鉛直次元のサイズは1である(Singleton次元).SnowDepthの第三次元(注:鉛直次元)にそった和は積雪深の総量を表すことになる
.
- 表O7に,積雪中における温度のプロファイルに関する事項を新たに加えた.現状では大抵のLSSは一層積雪モデルをもつので,この値はSnowTと同じ値となる.
- 変数DelColdContおよびDelSWEは2-D変数のままとする.これらの変数は保存則の検証のために使われるのが主な用途であり,プロセス研究を行うための存在ではない.将来数年にわたっては統合された積雪における水エネルギー収支の検証を行なうことで充分であると考えられる(It
is believed that a verification of the energy and water conservation
of the integrated snow pack will be sufficient for the years to come.)
POLCHER Jan
and
AGATA Yasushi
Last modified: Wed Mar 28 13:51:34 GMT 2001
Translated : Apr. 23 2001