8月1日(その2)

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高知海岸はとても危ない

いずこも同じ,やせ細る砂浜

高知海岸

 すでに載せた写真ですが,再掲です.日本各地で,砂浜がやせ衰えているのですが,ここも例外ではありません.かつて100m以上あったこの砂浜も,今や30〜40mです.それだけならまだしも,この海岸では海底勾配がきつく,台風襲来常習地帯であるため,波浪災害がたびたび起きます.砂浜のやせ細りは,だから防災上大きな問題になるわけです.



 (図はパンフからスキャン中)1991年,1993年には海岸堤防が見事に壊れました.はっきり言っておっかないところです.穏やかなときの海は,本当に美しいのですが….さて,こういう場合の対策は,主に二通りあります:[1]すぐ近くに住まない.大事なものをおかない.できれば土地利用すらしない,[2]テッテイ的に護岸をする.

 でまぁ,現状としては後者が選ばれているわけです.何しろ堤防のすぐ後ろには大事な道路がすでにあるのです.山が海に迫っているこの周辺は,何事もなければ確かにここは道路適地(内陸に作ろうと思ったらトンネル連続).しかし内陸に作った方が維持費用・労力が低減できるなら内陸に作った方がいいのかもしれません.このあたりは常にトレードオフの問題です.建設省というのは,いつもこのトレードオフと向き合っているわけですね,と改めて実感したものです.


よく見ると変な突堤

戸原6号突堤

 戸原工区というところで,「六号突堤」なるものを見せてもらいました.見たところどうってことはない突堤です.が,よく見ると全国的にも例があまり多くないタイプのものであることがわかります.これは傾斜型被覆ブロック構造と言われるもので,要するに左右が斜め&平滑になっていて,人間が歩きやすい構造です.普段は海岸に簡単に降りられるわけですね.ただしまだ工事は途中でして,最終的にはこの倍の長さ(現在は70m,最終的に150m)になるのだそうです.現在できていない残り80mは,直立型消波ブロック被覆形式となる予定です.


第十堰以外にも激しい反対運動が

仁淀川河口

仁淀川河口

 橋の上から,仁淀川河口が見えました.川と海とが出合う場所である河口では,つねにいろいろな感慨を覚えるものです.また,一つ一つの川が皆違う河口の姿をもっていて,見ていて飽きないものです.仁淀川河口は,砂州が東から西に延び,その西端にある切れ目から水が流れ出しているのですが,さらに先端にデルタ状堆積構造ができているのが写真でもよくわかります.白い波が立っているところが,堆積構造の先端です.

仁淀川河口

波介川河口導流事業

仁淀川河口

 ここで説明を受けたのが波介(ハゲ)川河口導流事業についてです.この川は,仁淀川の下流で合流する支流です.6kmほど山地を流れたあと,非常に低平な田園地帯を延々と(10kmくらい)流れて仁淀川に注ぎます.おそらくは構造性の谷を埋めた沖積平野(長期の地殻変動でどんどん土地が沈んでいるところに,川から運ばれてきた土砂が厚く溜まってできた平らな土地)の上を流れているのだと思われますが,まだ文献に当たっていないので断言はしません(←これ宿題).さて,極めて低平なところを流れている波介川は,したがって大した量の土砂を運ばず,一方仁淀川本流がどんどん土砂を流してくるため,本流のほうが高くなってしまっています.すると大雨のときに何が起こるかというと,波介川の近くに降ってきた雨が仁淀川に流れ込みません.どんどん波介川および周辺に溜まります.仁淀川から一滴の水もこぼれていないのに,降って来た雨が排水できなくて氾濫になってしまいます.こういうタイプの氾濫を内水氾濫といいます.波介川は内水氾濫が起こる条件を見事にそろえています.そもそもこの平地の真中にある「蓮池」という地名が意味深です.名前が示すような,放っておくと池ができるようなじめじめした土地なのです.

 (「完成予想図」をパンフからスキャン中)そこで河川行政側は何を考えたか?波介川の合流点(現在は,河口から約2km上流にある)を仁淀川の河口まで持ってきてしまい,どんどん波介川の排水効率を上げてしまおうという計画をたてたのです.これが波介川河口導流事業です.いままで川がなかったところに川を作ってしまう計画であるため地権者は文句があるかもしれません.新しい川の漏水被害や地下水への影響を心配する人もいるでしょう.また城山という高まり(の鞍部)を掘削することから,景観変化を惜しむ人から反対があるでしょう.実際に,反対運動が起こっているという説明を受けました.

 この日と翌日は,建設省の計画に対していろいろな反対意見と推進意見が入り混じっているという地域ばかり通りました.これがその第一号でした.現実に現場において災害防備にあたっている建設長の係官は,反対運動が起きたら「それじゃあもうヤラン」と仕事を投げ出すわけにはいきません.彼らは彼らなりにその川を愛し,したがって常に苦悩しているようでした.一方,反対側からみると,すでに災害防備という錦の御旗は通用しないのでしょう.対話が必要です.そういう時代なのです.


水の道をたどりながら

 (写真なし)バスは用水路(吾南用水?)沿いに仁淀川をさかのぼります.なんだか妙に水がたくさん流れている用水路です.きいてみたら,八田堰というところから仁淀川の水を取水しているとのこと.で,この堰はあの野中兼山が作らせたとのことです.それにしてもものすごい流量でした.


新宇治川放水路問題

仁淀川河口

 さて,反対運動第二弾です.写真を見てください.いきなり「うそつき行政 建設省高知工事事務所」なんて書いてあります.やや,なんとそれは案内の方の勤務所属場所ではないですか.我々ゲストに見せるにはちょっと勇気が必要だったかもしれませんが,しかし見せてもらったのはありがたかったものです.

 こちらの計画は,宇治川という,これまた内水氾濫常習地帯の水はけを良くするために行われる,という説明でした(波介川と同様,1975年に大被害発生.その後の20年間にのべ5500戸浸水).宇治川は仁淀川合流点付近よりも上流の方が土地が下がっているのです.さらに,全国屈指の多雨地帯を流れ下ってくる仁淀川は,洪水時に水位が宇治川流域の土地より高くなってしまうのです.なお,仁淀川の洪水(ピーク)流量が大きくなる原因は他にもあり,それは吉野川にも共通しています(後述します).

 というわけで建設省が考え出した案が,内水除去ポンプの増設+山の下をぶちぬくトンネル放水路の建設でした.しかし,それには次のような反対が起きています:「放水路が仁淀川に合流する手前で帯水層を横切るため,地下水位の変化が起こる」(←大部分は不透水層を通る.ただし最後の一瞬に砂礫層を通るので影響はゼロではないはず)「放水路から水が漏れ出して地下水が汚染される」(←放水路取水地点での水質はそれほど悪くないにもかかわらずこういう反対が起きるのは,宇治川水質観測地点がかなり水質の悪い下流の方にあるからで,そこでの測定数値が宇治川を代表するかのように「一人歩き」をしているのでしょう),「山の下をトンネルで掘る際,山の水が涸れる」…内水氾濫を防ぐために大規模な工事が不可欠なのか,それともまだ他に方法があるのか?翌日,吉野川第十堰のところでチラリと聞いたように,コンペが必要なのかもしれません.


(以下続く.)

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Text By AGATASHI