さて,羽田空港から高知に向かって出発です.便は日本エアシステム(JAS)の243便,10:20 羽田空港→11:35高知空港です.実は国内線に乗るのが始めての私は,乗るのにずいぶん戸惑ってしまいました.また,いつものフィールドの癖で金物をたくさん身につけていたのでさあ大変.ゲートで金属探知機が大活躍でした(係員の方ごめんなさい).
M90型機は何事もなく離陸.さて,空から見る富士山はさすがの大きさです.日本のA型火山(いわゆる成層火山)の中では化け物的大きさなのです.しかしハワイなどの楯状火山に比べるとゴミみたいなものですが.さて,写真下方に愛鷹山の裾野が見えています.富士山自体の裾野は厚い厚い雲の下です.この下には巨大な湧き水がたくさんあります.また,写真右下に狩野川がみえています.日本最大の湧き水,柿田川湧水群は写真のさらに右側となります(筆者が制作しているWWW資料「名水大全」参照)
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窓の外を覗いていた面々が歓声をあげました.なにやら面白いものがあったようです.窓際の席でなかった私もなぜか(笑)窓にへばりつきます.おお,これは面白い.御前崎近くの海岸線を見ているのですが,なぜか雲が陸地の上にしかないではありませんか.この現象はそれほど珍しいものではないのですが,原因と生起条件について機内で話が盛り上がってしまったのは言うまでもありません.他のお客様,変な奴らでごめんなさい(笑).
さて,上の写真にはもう一つ面白いものが写っていました.それを拡大したのがこれです.何が面白いかわかるでしょうか?
海岸線の近くの陸地に,海岸線とはやや斜交して色の濃い帯が何本か見えています.これが,一応地形学を学んだ私の目をとらえたものです.実はこれ,明治以降の開墾にともなって人工的に作られた斜め砂丘列なのです.この地域は西風の強風が卓越していて海岸沿いの土地利用は難しかったのですが,大正〜昭和初期にまずNW-SE方向の垣が作られ,それをベースにして自然の力を上手く利用しながら砂丘の固定(つまりは砂の固定)と飛砂の海岸への誘導を行い,砂丘間平地を有効利用できるようになったのです(以上,米倉伸之(1985):人工の砂丘−遠州灘海岸.「写真と図で見る地形学」東大出版会,88-89 より).
衛星リモートセンシング屋の心を捉えるのがこの雲.ほら,助教授が解説を始めました(笑).以下引用:内部で激しい対流が起こるのと同時にてっぺんでは強い風によってカナトコ状の平らな面ができています.この雲を衛星から見ると,ずいぶん背の高い雲に見えます(雲の高さを雲頂高度といい,これはOLR-outgoing longwave radiation-という,雲のてっぺんから出てくる赤外放射を測る方法で間接的に測定します).で,普通は雲頂高度が高い→対流活動が活発→下では雨という図式になるのですが,この種の雲は「雲頂高度が高く,広範囲に広がった雲」であるかのように測定されるのに,実はそれは薄いカナトコ状の雲を測っているにすぎず,実体のないバブリーな雲であるためあまり雨は降らない(か強くない)のだそうです.こういう「実際の雲」を知らないでリモートセンシングを行うことは危険である,ということがよく分かります.
完全にウケウリなので正しいかどうか(笑)…皆さんおわかりになりましたでしょうか?
まるで子供のように窓にかじりつきっぱなしです.「あそこは雨が降ってるな.雨滴の直径は〇〇mmで,最終落下速度は△△m/sとみた」「あちゃー,地形学の聖地室戸岬の段丘が雲で見えん!」「あの海のさざなみにマイクロ波をあてて海上風速を推定する研究もあるんだ」「すると波長は〇〇バンドかい?」……と話はつきません.いつのまにか周囲の人が引いています.視線を合わせないようにしています.同僚にすらナニヤッテルンダアイツラ/ホント,タニンノフリシテイタイワネという眼で見られています.あれこれ専門家以外にとってはどうでもいいことで盛り上がっているうちに,高知に到着です.あっという間のフライトでした.
感想:国内線に乗ったのは始めてでしたが,外を見ているとなかなか楽しいものですね.お金に余裕ができたころには多用してみたいものです.しかしそれはいつになるんだ?(笑)
高知は前夜大雨だったらしく,空から見る物部川は濁流でした.高知空港では,建設省四国建設局(高知工事事務所)の方が待っていました.車(バス1+ワゴン1)も用意してありました.本日および明日午前中のルートをセッティングしていただき,また案内してくれる方です.お忙しい中大変なことです.オマケに,私たち(の一部(笑))は案内されたからといっても言いたいことは言ってしまう,相手が恩人だろうが誰だろうが気に入らなければどんどん批判する性格(ま,研究者ですからね…)なので,なおさら大変であります.
さて,出発進行.案内の方は,海岸を担当している方でした.大量の資料を渡され,それを使っての説明でした.それにしても大変な量.実は3日間で総計3kg以上になりました.これらの資料は,実は建設省絡みの人以外には手に入りにくいのではないでしょうか.だとすれば非常にもったいないことです.というのは,たとえば建設省の事業に反対する団体がいたとしましょう.その団体が建設省を批判するとき,建設省の主張を批判するのではなくて,マスコミの流す情報を元に建設省を批判したとしましょう(ありがちなことですね).ところがマスコミの流す情報は合っているのでしょうか?実は建設省資料とはえらい違いということがあるのです.必ずそうだとは言いませんが,そういうことはよくあるのです.さてこの場合,建設省側から見ると,「なんだい,オレたちの言っている事を聞きもしないでよく分からずに反対かい?」となるのです(いや,建設省に私のようなガラの悪い(笑)人がいるわけではないですが).
もちろん,ちゃんとした団体なら建設省からじきじきに資料を入手し,それに対して意見を述べるでありましょう.それがちゃんとした態度というものです.私たちは,今回は苦労ずに建設省側の資料を大量に手に入れることができました(重たかったけど).これは助かりました.さて,次はアンチ建設省側の主張を丁寧に検討し始めなければなりませんが,それはまた後日の話題.
さて,この日もらったパンフの題名を書いておきましょう.著者&出版は,いずれも建設省四国建設局高知工事事務所です:
後で書くことになりますが,最後の二つについては現在地元の反対運動が起こっています.
道中,「このへんでは遍路道はどのへんですかね?」なんて関係ないことまで聞いて案内の方を困らせながら,坂本竜馬記念館へ到着.ここで昼食です.和風の定食で,おっとカツオの刺身があります.留学生相手に「東京ではめったに食べられない刺身だ」なんて威張っていました(オレが威張ってどーする(笑)).「どうして東京では食べられないの?」「冷凍すると一気に味が落ちるんですよ」「それではこの刺身は完全に生?」一瞬答えに詰まりましたが,そ知らぬ振りして「Off course」と答えてしまいました.実は知らなかったのです(笑).そっと聞いてみたら,食堂の人も知らないとのことでしたが,なんといろいろ調べてくれて,結局完全生だと分かりました.
竜馬記念館のすぐそばから高知海岸を見下ろせます.見ると,妙な突堤があります.いや,今やこれは「妙な」ものではなく全国の砂浜海岸に一般的になりつつあるものです.これはやせ細る砂浜を守るための突堤なのです.かつて100mはあった砂浜は今や30〜40m幅となってしまっているそうで,消波工は沈下するは,深掘れして堤防が壊れるは,越波災害は頻発するは…とろくなことがないそうです.台風襲来のたびにどこかを直す羽目になっているとのことでした.
意外と大きかった坂本竜馬像を後にして,桂浜へ下りてゆきます.桂浜は半島状地形の先端にある龍頭崎と龍王崎の二つの岬にはさまれた小規模な砂礫浜です.半島の先端ですから結構波があたるはずですが,二つの岬(基盤岩石からなる)にはさまれて砂浜が守られてきたようです.もっとも,このビーチも無傷では済んでいませんでした.まずは龍頭崎を眼下にして階段を下りてゆきます.
龍頭崎は桂浜に向かって左側の岬です.表面は石で覆ってありました.これはまあ「工事したな」と一撃で分かるものですが,問題はその突端です.一応岩です.でも,何だか色調が変(多分興味を持って見ないと分からない程度ですが).実はこれは人工の岩石で,コンクリート製なのです.昔はここは無粋なコンクリートブロックが置いてあって,かなり景観を悪くしていたそうなのです.
その人工岩を拡大したのがこの写真.近くで見れば,なんだか普通の岩でないことはお分かりでしょう.でも形自体は本物の岩石からとったのだそうです.そっと工事予算を聞いてみたところ,普通の工事の倍はしたとのこと.「大蔵省が文句を言ったでしょう?」なんて意地悪な質問もでましたが,最近ではそういう文句はあまり出ないとのことでした.これを税金の無駄遣いとみるかどうかは,最近では結論が出つつあるようですね.単にミカケを良くするだけとはいえ,これは社会的に必要なコストだと… でも税金を払う側の意見はどうなんでしょうかね?(言っておきますが億の単位ですよ)難しい問題ですね.
桂浜というのはこんな感じのところです.向こうに見えている岬が竜王崎.写真の左側に上記の龍頭崎があります.で,その間の砂浜が桂浜だというわけです.しかし両方の岬はかつて崩壊が激しく,無粋なコンクリートブロックや擁壁で覆われていました.龍頭崎は上記のとおりコンクリート岩で覆ってしまいましたが竜王崎はどうでしょうか.
ご覧のとおりです.こちらからみて右側の方(高い松の木の真下)はちょっとセンスのない(一目で人工だだとわかる)コンクリ工作物ですが,岬の先端の方はちょっと見には人工の岩だと気づかないでしょう.
「センスがない方」の写真がこれです.まだ「練習」だったのでしょうか.色合い・きめにまだまだ未熟なところがあります.
多少はよくできているのが竜王崎の上に登ったときに下に見える人工岩です.この写真には自然の岩と人工の岩が写っているのですが,どちらがどちらか分かるでしょうか?まぁウェザリングの程度からして明瞭かもしれませんが,しかし注意していないと分からない可能性もあります.ここに来る年間何百万という人々のうち,どの程度の人が気づいているでしょうか.しかしこの種の工法は,気づかれるべきなのかそうでないのか判断が難しいものですが.