はじめに
降水のd-excess(δD-8*δ18)は、蒸発時の湿度状態を反映していると考えられているため、降水の起源域(降水の元となった水蒸気がどこで蒸発したのか)を診断するトレーサーとして用いられています。
日本では、冬の降水d-excessが20‰以上、または夏の降水より値が高いとき、その主要な起源は日本海であると想定されてきました。この想定は、冬の大陸性のモンスーン(WM)と温かい日本海とでの大気−海洋相互作用によってd-excessが高くなるという解釈を基にしています。しかしながら、この想定は太平洋を起源とする温帯低気圧(EC)による降水には妥当でない可能性がありました。
そこで、本研究では、同位体領域モデルを用いて、日本におけるWM型またはEC型時の降水の同位比と降水の起源の局地的な分布を明らかにしました。
研究方法
本研究では、同位体領域モデルを用いて、日本におけるWM型またはEC型時の降水の同位比と降水の起源の局地的な分布を明らかにします。2000-2010年までモデルを走らせた結果を解析しました。WM型とEC側の区別は、モデルから出力された海面校正気圧をEOF解析することで区分しました。
結果と考察
日本海はWM型時の日本海側の降水に最も寄与していることがわかりました(>50%)(Figure 8)。その一方、EC型では太平洋が日本における冬の降水の主要な起源であるということがわかりました。
WM型とEC型における降水のd-excessの空間分布を調べたところ、日本海側におけるWM型の降水のd-excessはEC側のそれより高いことがわかりました。太平洋側では、WM型に降水がほとんどないため、この違いが不明瞭でした。
上記2つの知見を合わせると、日本海側の降水のd-excessが高いとき、日本海はその地域における主要な降水の起源であると想定することができます。それに対し、太平洋側では、降水のd-excessだけではその起源を推定できないことがわかりました。
さらに、日本海起源の水蒸気が降水に寄与している割合と降水のd-excessとの関係を調べたところ、日本海では両者の間に正の相関を持つことがわかりました。これは、観測されたd-excessから、冬季モンスーンの変動を推定できる可能性があること意味します。
詳細は下記論文を参照ください
TANOUE M, K Ichiyanagi, K Yoshimura, J Shimada, Y Hirabayashi (2017) Estimation of the isotopic composition and origins of winter precipitation over Japan using a regional isotope circulation model, J. Geophys. Res. Atmos., J. Geophys. Res. Atmos., 122. https://doi.org/10.1002/2017JD026751. [PDF] [Data]