落下中の雪粒子の外気との熱交換について

2/14’8 越田

1.        現業の予報モデルにおける融解の取り扱いについて

凝結過程は「格子スケール」と「積雲対流」に分けて計算。凝結水が雲になっているわけではない(H7テキストp67)

現業では雪水比(降雪量cm/降水量mm)を予報(H9テキストp28

気象庁予報部テキストには融解についての記述はない。

 

2.        融解過程の取り扱い(ひとつの粒子について)藤吉ノートp84

2-1.      外気からの熱による粒子融解の式

2-1-1.                        考慮する熱

氷粒子の融解については以下の2つの熱を考慮する。

1.外気からの熱伝導

2.相変化の潜熱

 

2-1-2.                        理論的な熱の輸送式

既往研究では水滴、雹を球形とみなして伝熱理論の応用として室内実験から係数を求めている[1]。外気から氷表面への熱フラックスは以下の式による。第1項が熱伝導、第2項が相変化を示す。4πRなので、気流に直行する断面積成分を対象としている。

 

R’:氷球の半径

K:空気の熱伝導率

T:氷球と氷球から十分離れた場所の外気との温度差

Lv:水の蒸発の潜熱

D:空気中における水蒸気の拡散係数

刄ミ:球の表面と表万から十分離れたところの外気との水蒸気密度差

 

係数aは熱輸送の通風(ventilation)係数である。完全な球の場合、Yuge[2]の実験によればレイノルズ数が101800の間において次式で表される。

ここでPrはプラントル数(動粘度〔流体等の粘りの度合い〕と温度拡散の比)Reはレイノルズ数を示す。

水蒸気の通風係数は熱輸送と同じ形を仮定して次式で与える。

ここで、Scはシュミット数(流体における動粘度と温度拡散の比)である。空気のプラントル数、シュミット数は通常0.710.60であるので、Pr^(1/3)=0.892Sc^(1/3)=0.8434でありほぼ同じ値となるので、松尾(1984)ではともに0.87を用いている。したがって、abはともに次式で表現される。

 

2-1-3.                        雪片の形の効果

雪の表面の凹凸、多孔的性質を表すために、雪片に対する熱輸送をH、氷球に対する熱の輸送をH’として補正を考える。熱伝導による熱輸送、水蒸気による潜熱輸送の物理過程が類似していることを考えると、雪片の形による熱輸送の係数(補正値)は熱輸送と、水蒸気輸送でそれほど違わないと考えられる。したがってひとつの調整係数εを用いて次のように取り扱う。

ここで、Rは雪片を球と仮定したときの球の半径を示す。εは雪片の形状が球形でないことによる調整係数であり、単位面積あたりの係数として考えている。次節で示す実験により求めた値を利用する。

 

2-1-4.                        調整係数の調査

1)      融解中の粒子内の温度分布

融解中の雪粒子内の温度分布は、以下の理由から一様に0℃と近似する。

     水の熱伝導率は空気より大きく、粒子内の熱の輸送は外気からの輸送に比べて早い。したがって、熱は水から0℃の氷へと輸送される。

     表面で固体から液体へと相変化した水は、雪片の内部へしみこみ、粒子内の温度差を小さくする。

また、これらのことから、外気からの輸送される熱は、全て雪片粒子表面の融解に使われると考えてよい。

2)      融解中の粒子の熱のバランス

外気からの熱の輸送と融解の潜熱のバランスは、t時間に融解する表面の氷の厚さをRとすると、次式で表現される。左辺:粒子に入ってくる熱のフラックス。右辺:粒径の変化

ここでLfは氷の融解の潜熱、ρiは雪片の密度である。

前述のようにa=bであるとすれば、融解に伴う雪片の半径の変化は次式のようになる。

       (1)

 

実際にεを測定した実験では外気はほぼ相対湿度100%となっており、水蒸気密度の差は小さくなっていた。したがって、融解に伴う雪片直径の変化は次式で表される。

ここでVは気流の速度、vは空気の動粘性係数である。

 

 

3)      初期直径を変えて実験

14個の雪片を対象に、Rの時間変化を断面積の変化で評価して、εを求めた。実験は異なる初期粒径(4mmから約10mm)によって実施されたが、粒径によるεの変化は小さかった。そこですべての雪片について同じ値となると考えられ、14個の平均でε=1.75が得られた。(粒子が凸凹しているので、空気との接面積が大きくなりεは1より大きい、と考える)

実験に用いられた数値は以下の通りである。

  (空気の熱伝導率)

                                    (氷の融解の潜熱)

                                    (空気の動粘性係数)

                                          (空気と雪片の温度差、雪片は0℃と仮定)

                                   (融解していない雪片の密度)

                                      (気流の速度)

 

4)      補正係数の意味

補正係数εが変わる要因は以下の点が考えられる。

     雪片の形は完全な球ではない。

     雪片の表面の凹凸によって通風係数が氷球(滑らか)と異なる可能性がある。

     雪片表面の空隙部分の影響。

 

またこの実験で得られたεは以下のとき適応除外となる。

氷晶もしくは23個の氷晶からなる粒子の場合は融解した水が粒子表面にとどまるので、今回の係数は当てはまらない。

 

2-2.      雪片の終端速度の式

(整理中)雪片の抵抗係数を雪片の値(Cd=1.2)から雨滴の値(Cd=0.6)の値まで雪片の半径Rの1次関数として近似した。

 

3.        計算例

低気圧の中央部を通過した事例は大気状態の変化が急激なので層状性の20041229日の事例を対象としたい。(計算は今後)

1 200412299時(MSMの初期値)



[1] Ranz, W. E. and W. R. Marshall, 1952: Evaporation from drops. Chem. Eng. Prog., 48, 141-146

Macklin, W. C., 1963 : Heat transfer from hailstones. Quart. J. Roy. Met. Soc., 89,360-369.

Goyer, G. G., S. S. Lin, S. N. Gitlin and M. N. Plooster, 1969 : On the heat transfer to ice spheres and the freezing of spongy fail. J. Atmos. Sci. 26,319-326.

Pruppacher, H. R. and R. Rasmussen, 1979: A wind tunnel investigation of the rate of large water drops falling at terminal velocity in air. J. Atmos. Sci, 36,1255-1260

など

[2] Yuge, T., 1960 : Experiments on heat transfer from spheres including combined natural forced convection. J. Heat Transfer, 82, 214-220.