MRRを用いた霙水量の推定1(レーダによる霙観測)
11/11’7 越田 智喜
MRRによって雨・霙混じりの雨の状況は観測できている。(観測例:図 1)雪に変わり、アンテナに積雪があると電波が減衰して受信できない。雪が積もる前の状態を調べるしかない。
既往検討から融解中の粒子の落下速度はあまり変化が無い(雪の形状から空気抵抗が大きいため)といわれている。融解に伴って粒子の落下速度は大きくなるが、雪→霙→雨の変化については観測結果が少ない。融解層の厚さは数百m程度であり、平均的な降水のエコー頂を5000mと考えると、1割程度が融解層に当たるので、水の循環を考える上で融解過程は無視できない。
観測した印象では、MRRの観測について、高度分解能は100m間隔でも荒いと感じる。
図 1ドップラ速度と反射強度因子スペクトル MRRの観測例(霙状態)
融解中の雪の粒径分布を考察する。図 2は背景に松尾他による融解粒子の研究結果(藤吉気象研究ノートより)を用い、雲の中の状況を推定する。
図 2融解中の粒子の落下速度と高度の関係(赤線は補助のため追加)
元研究では粒子直径別の融解に伴う落下速度の変化を示しているが、
・ 粒子間の併合・粒子の分裂が全くない
・ それぞれの粒子が融解を開始する高度は完全に同じ
と仮定すると、融解中の雲の状態を表現していると考えることができる。
赤線の高度についてどのような降水粒子が存在するか考察すると以下のように考えられる。
霙状態のA:融解中の霙粒子。粒径が大きいのでなかなか融けない。
雨状態のB:粒径の小さい粒子は、いま考えている高度より上空で融けて雨になっている。縦の直線は落下速度が高度によって変化していないことを示している。
雨状態のC:ある程度大きい粒子はBの粒子より下まで霙状態にある。
落下速度と粒子タイプについて考察すると、B、Cは雨粒子であり、粒径の大きな降水粒子の落下速度が大きい。つまりB〜Cの範囲には雨粒子が存在する。
Cより少し大きい粒子は霙状態であり、Cより少し小さい落下速度を持っているので図の線分BC間に出現するはずである。したがって、C〜Aの範囲には霙粒子が存在する。
すなわち、B〜Cの範囲は雨と霙が共存することになる。
粒径について考察すると、密度の大きい(氷を多く含む)Aの粒子がもっとも大きい。霙粒子はAからCにかけて粒径が小さくなる。雨粒子は「Cの粒径>Bの粒径」である。
融解に伴うレーダ反射鏡度因子の高度変化を模式的に表現する。
融解の結果得られる雨の粒径分布はどの高度でも同じと仮定して、融解中の粒子がもたらす後方散乱断面積も正規分布になると仮定した場合の、高度変化を図 3に示す。図中、黄色い線がレーダによって観測される反射強度因子に相当する値となる。
融解中の粒子の散乱断面積は適当に与えた。(雨の未融解部分の粒径分布はわかるのできちんと計算することが望ましい。)
この図で表現したいことは以下。
・ 融解が始まると分布の幅が広がる(分散が大きくなる)。
・ これまでの仮定のもとでは、観測されるドップラ速度の最大値は融解中の最小粒径(霙粒子の最小値)を与える。
図 3融解中の粒子をレーダで観測した場合、期待される後方散乱断面積変化の模式図
図は高度順に並べた。