ver. 2.1
by AGATASHI
期間:1995.3.15-21 /成果:OS6b+ , RP7a
南タイとは,どういう所でしょうか.
バンコクから一晩でいけるはずのクラビKrabiに,いくつもの恐るべきスケールを持つ鍾乳洞に寄り道しながら4日かけてたどり着いたとき,私の得ていた答えは,次の通りです.すなわち,南タイとは,「石灰岩の大地」なのです.
この4日間,私の視界に常にあったのは,巨大な石灰岩壁でした.免許証不携帯のまま強引に借りたレンタバイクを駆っている時も,あるいはどこに行くのか皆目分からないローカルバスの車窓からボーっと外を見ている時も,はたまた壮烈な値引き交渉の末に座ったバイクタクシーのタンデムシートで風に吹かれている時も,それは同じでした.本当に,走っていると5分ごとに二子山の数倍のスケールを持つヤツが,それも車道のすぐそばに現れるのです.Limestone Kingdom of Thailand!!
そして,この秩父セメントが何百年かかっても掘り尽くせないであろう大石灰岩地帯のほんの片隅で,岩雪156,161各号で紹介されたクライミングが行われているのです.
仏暦2538年(AD1995)3月15日昼.妙に西洋人バックパッカーの多い,従って英語も通用しやすいKrabiから,一人の汚いなりをした東洋人がプラナーンPhra Naang岬に向かいました.むろん私のことです.Phra Naang行きの船,というよりボートは桟橋でも何でもないところからそれも不定期に出発しますが,まあKrabiの町中でいかにも旅行者という風体をしていればアヤシゲな兄ちゃんがムチャクチャな英語で声をかけてくるのは99%以上確実なので,それに対して「プラナーン!」とこちらも同じくらいムチャクチャな発音で言ってやれば身ぶり手振りで場所を教えてくれます.
ボートは40分ほどで私をPhra Naang岬のRai Lay Beachに送り届けました.料金40バーツ(以下Bと表記).乗るときも降りるときも浜辺をジャブジャブ歩くのは,岩雪161号の通りです.なお,この下船地点は季節によって異なるビーチになるそうですが,どのビーチも徒歩数分で行き来が出来るのであまり問題はないでしょう.
周辺には,例によって例のごとく石灰岩のタワーがニョキニョキそそり立っています.海中からも何本もそびえています.そのうち陸地に近い方の2つのタワーと陸との間に砂がたまって,いわゆるトンボロ(陸繋島.高校地理を思い出すように)になっているのがこの岬です.その砂浜の上には数百のバンガローが立ち並び,波の穏やかな美しいビーチは今や知る人ぞ知る静かなビーチリゾート(白人ばっかりで,日本人はごく少数)となっています.陸伝いの接近は不可能に近く,船でしか行けないのですから,気分は絶海の孤島です.
それまでの一人旅で石灰岩壁を見慣れたせいか,これらのタワーを見てもあまり感慨はありませんでした.タイ南部にあるべきものがそこにもやっぱりある,といった感じです.ところが,そのタワーを見上げた視線をビーチに下ろしてゆくと,タイ南部にそう沢山はないものが見つかりました.すなわち,ビーチで寝っころがっている人々の中で,女性の5人中4人はトップレスなのです. ビーチの隅の方ではオールヌードになっている連中が(男女とも)います.後から分かったのですが,このオールヌード軍団の間を突破しないといけないエリアもあるのでした.いやはや何とも......
プラプラ歩いていると,Ya-Yaというバンガローの隣にPhra Nang Rock Climbers (以下PNRC)というショップを見つけたので即刻宿をここに決めました.200B/Nightの所を長期滞在と言うことで170B/Nightにしてもらいました.
岬にはこのほかに地元クライマーのTexと白人のJimがやっているTex Rock Climbing and Adventures (以下「Texの店」)というショップもあり,どちらもギア・ロープのレンタルやガイド,"belay slave",ドリルのレンタル,ソールの貼り替え,さらに素人用入門コースなどの充実したサービスを行っています.PNRCではチョーク(80〜120B)やロープ(4500B),Texの店ではTシャツやタンクトップ(250B)を売ってもいます.PNRCにはタイ人の青年と西洋人のねーちゃんがいて,わたしはこの妙に聞き取りやすい英語を話すねーちゃんと親しくなりました.もっとも彼女としてはこのたった一人で日本から来た青年が珍しかっただけなのかもしれませんがね.何はともあれ,「平山裕示の身体には重力がかかっているのか」などの他愛のない会話を毎日飽きもせずやって,楽しかったです.
このPNRCには,トポ "Phra-Nang Rock Climbers Route Guide Book" (71 pages,300B) が置いてあって,速攻で購入.さらにショップの壁には新ルート情報が書いてあって,要するにルートの情報は全部ここに集まるようです.私の行った直前にも8bを含む数十本のルートが出来たことがこの「壁新聞」から分かりました.時折「パートナー探しています」という張り紙も出ました.また,このトポの背表紙裏には各国グレード対照表がついていて便利です(以下に記すデシマルグレードはこの表を参照して書いたもの).何はともあれ,現地に着いたらこれを買って下さい.そのことを期待して,この文ではエリアの詳しい紹介はいたしません.
グレードと言えば,かなり多くのルートが,私がすでに持っていたVamos社のトポ(もはや役に立たない.PNRCのねーちゃんによると「これはもうゴミみたいなものよ」)や岩雪161号の記事に比べると1ランクグレードダウンされています.例えば岩雪156のカラー写真を飾ったOrange Tears(本名はNam Som Taa)は7a+だったのが7aに,という具合です.私はフレンチグレードそのものはよく分かりませんが,前述の換算表でデシマルに直したこのトポのグレードは,体感グレードとよく一致していました.
人がいそうなエリアをねーちゃんに教えてもらい, まずはMuai-Thai(ムエタイ,タイボクシングのこと)というエリアに出陣.砂浜をビーサンでトコトコ歩いていくと5分で到着.すごい環境です.このエリアは意外に小さく,岩雪161号76頁の写真では右下2cm角位にしかなりません.ここのすぐ左隣の1-2-3エリア(前述の写真では中央やや右の明るい色の壁)にタイ人クライマーがいたので声をかけ,お互いに壊滅的な文法の英語でやりとりし,即席コンビ成立.彼はSiaという名で,レベルは私と同じくらい.彼に限らず,タイ人クライマーは外国から来た人間を本当に仲間として受け入れてくれ,嬉しかったです.このエリアの上部には美しい前傾壁があり,その真中を突破するのが前月できた新しい8b.
タイ人とつき合うに当たって,本当に役に立ったのは私の付けていたタイ文字の名札です. これのおかげで私はどこに行っても一瞬のうちに名前を覚えられ,あちこちで「ヤスシ!」と声をかけられる人気者となりました.さらに私はタイ語で超基本的な挨拶だけは出来るので(これが旅行中どれだけ役に立ったことか...),大うけでありました.まあ,物怖じしないで積極的に仲間になろうという働きかけをすると向こうもちゃんと笑顔で答えてくれます.さすがに「微笑の国」.
ここは前述したように白人リゾート地なので,英語だけでも生活できます(日本語は「サヨナラ」と,なぜか「ヤクザ」は皆知っている.更に最近は「コウベ」も有名)が,英語で応対しているときのタイ人は妙に無愛想です.それがこちらがタイ語で挨拶した瞬間にとたんに「微笑の国」に一変するのです.クライミング以外でも楽しい旅行をしたかったら,従って挨拶は覚えていった方がいいと思います.
話がそれてしまいましたが,私の当地最初のクライミングは,この1-2-3エリアのShort & Savage (6b=10b/c)のオンサイト.名の通り実質6mほどの短さですが,薄かぶりの縦ホールド連続テクニカルルートで楽しめます. ただしこの終了点がなんとボルト1本にビナ2枚がぶら下がっているという代物で結構コワイものでした(プロテクションについては後述).
つづいてMuai ThaiエリアのMuai Thai (6b+=10d)をオンサイト.SiaがTRノーテン.それから隣の6b+に突っ込みましたがあまりのワンムーブにテンション.核心であるツルツルの120度前傾壁のトラバースは,ボルト1本めのすぐ上,というか右なので実にコワイ.まあ後日やることにしてその核心を避ける6a+(10a/b)を登って終了.Siaと再会を約束して握手しました.ちょっと苦めのシンハ・ビールで「チャイヨー(乾杯)」!!
朝Muai Thaiエリアに行くと女性クライマーが2人いたので声をかけました.シンガポールから来た彼女らの言うには昨日日本人クライマーが2人いたとのこと.かなり上手だったと言っていたので,それなりのエリアに行っているでしょう.PNRCのねーちゃんに聞くと「上級者が朝行くとすればTon SaiエリアかDum's Kitchenエリアね」.前者は岩雪161で写真入りで紹介されている非人道的にかぶった超前傾壁(6a+〜8a+),後者はその右隣(6a〜8a)のこれも前傾壁です.西向きなので,朝しか登れません.
関西から来たその日本人2人はDum's Kitchenエリアにいて新しい7b+(12b/c)を登っていました.うーん上手い.遠慮がちに声をかけて6b+をやらせてもらうと,これが私の天敵である縦ガバ身体振り振りドッカブリルートで,あっさり敗退.後ろで2人がうんざりしているのがよく分かります.それにもめげずPahn Taalod (6a=5.9)へ.これはさすがに一撃.2人は前日12便(!)出したという事で,昼食後は100%昼寝体勢.すっかり2人のペースを乱してしまったなと反省しつつ,別れを告げました.
このエリアは干潮時には波打ち際をジャブジャブ歩いていけますが,満潮時にはすこし高巻きが必要です.Railay Beachの北隅にPrivateという看板がありますが,その5mほど左に明瞭な踏み跡の入口があります.この入口付近が,前述したオールヌード軍団のたまり場です.
午後は前日に続いて1-2-3エリアへ. タイ人のLymと知り合い,一緒にクライミング.Orientales (6b+=10d)をオンサイト.これは文句なしに三ツ星.50mロープでは本当にギリギリになってしまう長い長い垂壁で,弱点を探して右往左往しながら10b位のムーブを2つこなしてクリップ+レストというのが5〜6回連続します.レストポイントから出ていく瞬間の一瞬のためらいと,それを振り切って次のムーブにはいるときの緊張感は格別.遠野観音岩の「上を向いて登ろう」を縦に2つつなげた感じです.続いてWe, Sad (6a+=10a/b)を一撃.いきなり鍾乳石に飛びついて過激なボルダームーブ.これが爽快.
トポに載っているいろいろなエリアを偵察.本当に色々なところに壁があり,また,それ以上の数のバージンウォールがあります.ただ,干潮時でないと行くことが出来ない or アプローチが変わるエリアがあり,そのためかPNRCには潮汐の時間が書いてありました.本当にこの店は至れり尽くせりです.
なお,岩雪161にあるとおり,Phra Naang Beachエリアは既にクライミング禁止.トッド・スキナーの8bがあったこのエリアは,なにしろ落石を起こしたら普通の観光客を直撃するとんでもないところで,まあしょうがないかな,という気がします.もともとここは国立公園内であり,タイ観光局(TAT)は「岩を傷つける」クライミングに好意的ではありません.PNRCは,「TATに,この地のクライミングがいかに大きな観光的価値を持っているか手紙を書いてくれない?」と掲示を出していました.ちなみに,歴代の王様や偉人はあちこちの洞窟の壁に自分の名を刻んでいます.うーむ...
石灰岩タワーの一つには巨大な縦穴が開いており,その底は海と地下でつながった池になっていると聞いたのでさっそく行ってみました.Sun Rise BeachとPhra Naang Beachとを結ぶ木道の途中を山側に入り,やたら急な道を5分(標高差50m位)登ると分岐点.これを右に下ります.最後に5m位の垂直な崖を3段降りるとPrincess Poolという名のその浅い池に着きます(Phra NaangというのはPrincessの意味だそうな).まったくの素人には少し危険かな?池についたら左の狭い洞窟を抜けると池を1/3周できます.また,池で泳ぐこともできます.やたら静かで,それに縦穴の底だから音響効果は最高(手を叩いてみよう).池の水位は海の潮に少し遅れて上下する(!)ようで,学術的興味満々です.
先ほどの分岐をまっすぐ行くと5mほどでまた分岐.ここも直進すると5分の歩きで1-2-3エリアの真上くらいの"Low View Point".一般人はこちらがオススメ.左に行くと3級くらいの88度岩登り約30m+岩稜歩き20mで"High View Point".一応ロープがはってありますが(Tex達が整備したらしい)一般人にはモロ危険.しかしいい眺めだ〜〜.岩雪156号5頁下の写真は,このどちらかから撮ったものでしょう.
午後はMuai Thaiエリアの6c+(11b)にトライ.これがまた昨日の6b+とおなじ苦手パターンでダメ.仕方なくヌンチャクでアブミを作り人工しました.ビレイのシンガポール人女性は唖然としています.さらに集まってきたタイ人の前で私がSuper Clip付きチョンボヌンチャクでクリップすると,異様などよめきが生じました.見たまえタイの諸君,これがアジアの盟主ニッポンの誇るハイテクノロジーだ!!
さて,このエリアのNam Som Taa(タイ語でOrange Tearsの意味.7a=11c)にトップロープがはってあったので,冗談のつもりで借りてトライ.美しい前傾壁に散らばる遠いポケットをつないでゆく見栄え最高のルートです.ただし,見事に出だしのワンムーブのみ.岩雪156号7頁のトッド・スキナーの写真がそれです.何となく持ちにくい右手のアンダーを取り,足を一気に上げた窮屈な体勢から彼が左で持っている出っ張り5mmの遠い遠いピンチを取りに行き,更にその上のいいポケットにデッドポイント.傾斜は薄かぶり程度.バランスの勝負です.
当然ながら最初は歯が立たなかったのですが,「風に吹かれて」の核心に似ていないこともないなと思った私は,(「風に吹かれて」でもそうしたように)重心の位置を色々変えてトライしてみました.するとある時自分でも「?」となるくらいあっさりできてしまいました.デッドポイントの時,頭の向きがポイント(「かかってきなさい」に感謝)です.そしてこの上は,バランスがいる10b(スメアが鍵.これは宮崎さんに感謝)で,問題なし.
これは7aを登れるか?と思いリードでトライ.2回やったがいずれもワンテン.とくに2回目は核心を越えてから落ちました.もう少しでイケルでしょう.でも指が死んできたので,明日はOFF.
岩場で知り合ったタイ人と,彼がバーテンをしているYa-Ya Barに行くと約束.行くと,満員なのに,なぜか一つだけ席が空いていました.これから毎日そうでした.いいヤツだ.ここには2年間日本にいたバーテンもいて,楽しい話が出来ます.ぜひ訪ねてほしいですね.彼は私を覚えているかな?
Pang-nga湾へのツアーに参加(バンガローで申込).かつて007「黄金銃を持つ男」のロケをやった沈水カルスト地帯を巡るもので,ハイライトはその名もJames Bond島です(Pang-ngaの発音は難しくなかなかタイ人には通じなかったが,「ジェームズボンド」と言ったら一発で理解された).Krabiに夜行で着いて周囲の風景を見ていない人は,このツアーに参加することをお勧めします.車窓から,ボートから,何百もの二子山・岩泉・備中・柏木etc.を眺められるでしょう.なお,帰りが遅くなったときにはKrabiからボートが出ないので,タクシーなどでAo Nangまで行き(15B),そこからボート(20B)という手を使います.昨日岩場で知り合ったクライマー(お兄さんが東大に留学中という奇遇!)にKrabiで出会い,タクシーはタダとなりました.このAo Nangで日本人のKさんSさんカップルと知り合い,意気投合.
「おはよう.調子はどう?」PNRCのねーちゃんが声をかけてきます.「上々!!と,願うよ」「どういうこと?」「今日はNam Som TaaをRPするんだ」「まあ!がんばってね!」美女に声をかけられて勇気百倍しないわけがありません.「まあ5分で十分さ.それで今日のクライミングは終わり.」と,これはハッタリ.しかし実際,指が回復せず,今日はこの7aのRPだけを狙うことにしましょう.「あらそう,でもボルトは昨夜全部ダメになったから落ちちゃダメよ」きついジョークです.これは実際にNam Som Taaの一本目のボルトが見事に浮いたフレークに打たれており,使えないことに由来する発言なのです.私よりボルト打ちの下手な人がいるとは,世界は広い!
午前中は昨日知り合った日本人のKさんSさんのカップルをPrincess Poolに案内.午後,いよいよNam Som TaaにRPトライ.2回目(通算5便め)にRP.狂喜乱舞.今までの最高グレード5.11b(Tウォール東京の緑ルート)より確かに少し難しい.11b/cか11cかな?いずれにせよ岩雪156号6頁の"5.12a"はないです.「かかってきなさい」方式なら私は12aを登ったことになるのですが...
岩雪156号7頁でスキナーが取りに行こうとしているポケットは,写真では鍵穴状になっていますが,私が登ったときには逆三角形でした.PNRCのねーちゃんの話では,かつては完全に指ジャムが決まり大怪我をする人がいたそうです.当時は本当に5.12aあったのかもしれません.「これがもう少し悪いホールドなら,あるいはルートの最後にこのムーブがあったなら,もっと面白かったんじゃないか」と生意気なことを考えました.
Nam Som TaaのRPにすっかり満足した私はモチベーションマイナス100%.KさんSさんをLow View Pointに案内しました.さらにKさん(男性)をHigh View Pointにガイド.まず私がロープを引いてフリーソロし,上からビレイ.4月から警察官になるガッチリした彼は,全身の筋肉を総動員しながら,それでも上手く登ってきました.彼にとっては初めてとなるHigh View Pointは,今日もすばらしい眺め.天気の心配がないというのはいいねぇ.下りは私がやはり上からビレイしてKさんがクライムダウン.少々力が入りすぎのきらいはありますが,下で待つ恋人のもとへ,慎重に,でも懸命に降りて行きました.これで二人の仲はさらに強化か?
夕方になってから,Kさんの体験クライミングの合間にNam Som Taaをヌンチャクをかけながら再度RP.結局のところバランスムーブであるので,パンプしません.さらに,初日にオンサイトを逃したPattica Samupada(6b+)をRPして終了.結局,これが最後の登りとなりました.
今日は最後の夜.タイ人しかいないディスコへ乱入.タイのダンスミュージックはなかなかいいリズムです.明日は出発しなければならないという現実から目をそらすかの様に,あきれるKさんSさんを横目に踊り続けました.
出発の日.PNRCのねーちゃんにみやげとしてステンレスのビナを進呈.どこかのルートの終了点に使われることでしょう.
Lym, Sia, Tex等の知り合ったタイ人に別れを告げました.「また来るのかい」「もちろんさ.ここは俺にとってはパラダイスだよ.来年も来るよ」パラダイスという言葉を聞いたときのTexの嬉しそうな顔は忘れられません.時計の針さえ進むのをためらうようなのんびりした当地は,確かに極楽浄土でした.「それじゃあ,ラーコンナーカプ,ポップクンマイカプ!!」
旅:観光目的で30日以内の滞在ならヴィザは不要.Krabiへは,
タイは旅行業が異常に発達しており,ちょっと大きな町なら日本のコンビニ並の密度で旅行代理店がある(空港や主なホテル内にも出店がある)ので,利用しようと思えばいくらでもできる.まあ[1]も[2]も,空港内の旅行代理店に頼むのが安直でいいかもしれない.すべてセッティングしてくれる.自分でやりたい人は,[1]はよく知らないが,[2]ならバンコク空港から南バスターミナルへエアポートタクシー(空港内にカウンターがある.400Bくらい)で行き,ターミナルで直接切符を買う.バスのグレードによって違うが,400〜700B(高いのは"VIP"バスで,座席が少なく快適).長距離バスターミナルには「南」の他に「東」「北」があり,それぞれ全く違う場所なので,「南バスターミナル」「行き先はKrabi」ということはきちんと伝えるべき.もっと安くあげたい人は市バス59番(なんと3.5B)か列車(5〜20B)で市内へ行き,バス/タクシー/トゥクトゥク(3輪タクシー)などありとあらゆる手段で南バスターミナルに行けばよい.この場合は空港でバス路線図(35B)を買うことをお勧めする(バス路線は番号で示され,タイ語が読めなくても何とかなる).なお,Krabiには鉄道は来ていない.カネについては,日本円のT/Cがベストだろう.現在(1995年3月)1B=約4円である.両替はバンガローの受付でも出来る.ただしKrabiの銀行の方がレートがよい.KrabiからPhra Naangへのボートはヴィエントンホテルの向かいから出る.桟橋と水上レストランの間である(間違えて桟橋に行きそうになる.注意).
季節:一般には11月から5月.特にいいのは12月,1月で,雨が降らない.ところがこの時期は香港・シンガポールあたりから大挙して人が押し掛け,宿は高くなるは,ルートが1時間待ちになるは(まるで極東の某国みたいだ)でロクな事がないそうである.私のいた3月は,たまに日没ごろ雷雨が来る程度で天気上々,ルートがら空きでいい環境であった.でも結局いつの雨もスコール状に短時間に降り,それに壁は完全にかぶってかつしみ出しも少ない(不思議だ)ので,結局一年中なんとか登れるそうである.なお,気温は30度前後で一定,34度を越えるのも25度を下回るのも珍しい.日陰なら,案外快適にクライミングできる.
生活:料理の素材以外の生活必需品はすべて手にはいる.さらにラウンドリーサービス・美容院までがあり,外見を気にする?クライマーが長期滞在しても安心(洗剤も手に入るので自分で洗濯しても良い).なんと国際電話もかけられるし,PNRCはFAXの取り次ぎもしてくれる(らしい).絵はがき・切手(9B)も手に入る.ポストも売店にある.料理については,豚肉が出ない.私はカーオパットガイ(鳥肉チャーハン)とパッタイクン(海老入りの焼きそばみたいなヤツ)をあちこちのレストランで食べ比べていた.前者はCoCoというレストランが絶品で量も多い.ただし来るのが遅い.後者はYa-Yaバンガローのレストランがいい.値段は一泊8000B以上のDusitという超高級ホテル以外はどこも一皿40B程度.また,バーは相当遅くまでやっているし,3日に一度くらいはどこかのバー(というよりディスコ)で大騒ぎパーティーがあるので夜も退屈しない.なお,砂浜にキャンプしているしている連中がいた.真の少数派である.
プロテクション:99%はステンレスボルトルート.貫通した穴が多いのでそれにスリングを通してプロテクションにしている場合も多い.甚だしきにいたっては25mでボルト1本(スリング8本)という例もある.なお,ケミカルを使ったルート(とくにDuncanという人が作ったルート)ではちゃんと打ってない場合があり,厳重に注意が必要,とPNRCの壁紙に書いてあった.ボルト間隔は近いが,超ガバ連続で「ここじゃ落ちないよなー」という部分では結構ランナウトする.終了点については,大概しっかりしているが,ボルト1本という例もある.全体的に,プロテクションには注意が必要と感じた(海沿いでもあるし).
ギア類:ロープはできたら60mがいいが,50mでも何とかなるルートも多い.60mロープについてはPNRCやTexの店で借りるという奥の手もある.ヌンチャクは最低10本,できたら15本ほしい.また,10mスリングが数本あれば終了点の整備が出来てトップロープも安心である.浜辺のエリアでは,すべてのギアが砂だらけになる.ゴザを買う(70B)か,レジャーシートを持っていくこと.もちろん,チョークは多めに.買うと結構高い.ギアではないが,防虫スプレーやタイガーバームは必携.ちなみに,汗が出てしょうがない時は,腕にタイガーバームを塗って冷やすというキワモノの手段がある.また,PNRCでは中古のギアを安く譲ってくれる人を捜している.とくにヌンチャクとサイズの大きいシューズを求めているそうな.靴と言えば,かかとが固定できるサンダルとスニーカーがあれば便利.
言葉:次のとおり.なお,[カ]の部分では,男性は「カッ(プ)」(「プ」は言わないで途中で止めてしまう.表中でも同じ),女性は「カー」という.これだけ覚えれば君も人気者だ!?
こんにちは サワッディー[カ] 調子はどう? サバーイディーマイ? ありがとう コー(プ)クン[カ] いい調子です サバーイディー[カ] さようなら ラーコンナ[カ] また会いましょう ポップクンマイ[カ] 幾らですか タオライ[カ] どういたしまして マイペンライ[カ] 右 クワー 左 サーイ ガンバ! クンベロイ!or スォー! いいぞ! ディー! 日本 イープン タイ タイ
なお,クライマーが登り出すとき「クライミング」と言い,ビレイヤーが「オンビレイ」と(本当にオンビレイなら)返事する習慣がある.日本の「お願いします」「ハイ」より安全志向が強い?それから,「はってー」といのは「テイク・ミー」で通じる.
開拓:現在は,宿のすぐ近くの歩いていけるところ,あるいはボートをチャーターして降りてすぐ,というところにばかりルートが開かれており,それでもまだまだ手つかずの美しい壁だらけである.それと,日本的感覚,つまり車で行って駐車場から少し歩いて...という感じの岩場なら南タイ全体で数千個になると思う.Krabiをベースにすると軽く百個くらいかな.それに,なぜか採石場は極めて少ない.あー天国.