官公庁等による既存国内データベースの現状

公開文書へ


はじめに

 水文水資源学会内の研究グループの一つに,「山地流域カタログ・データベース研究会」というものがあります(東京工業大学 蔵治光一郎氏主催).これは国内の山地流域所のカタログおよび,それらにおける水文観測データを集めたDBを作ろうとするプロジェクトです.

 2000年11月13日にその研究会の第一回ミーティングが京大防災研水資源研究センターで行われ,安形も発表を行ってきました.その当日使用したOHP資料(公開分はMS Powerpointスライド16枚)と,事前に提出し当日要旨集の形で配布された文章(下記)をここに公開いたします.

 出席者の方々にはこの発表について活発な議論をしてくださり,また極めて有益なご助言を多数頂くことができました.ここに記し,出席者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 なお,第一回ミーティングについては研究会のWWW資料があり,そして当日行われた議論に関しても資料があります.また,MS-Word形式ですが,全発表者の要旨集も入手できます.

 さて,以下に安形分の要旨を公開します.


官公庁等による既存国内データベースの現状

東京大学生産技術研究所 安形康 AGATA, Yasushi, Ph.D.

 「水文観測は誰がいつからどれくらい行っていて,そのデータはどのようにして入手可能なのか」この問いに答えるデータはまだ十分とは言いがたい.しかし,官公庁により集められた現業データに関しては,よくメタデータが揃っているものがある.以下ではこれらのデータセットの概観を行なう.なお,本稿では日本国内における降水量・河川流量に関するデータ,特に近年新しい媒体やオンラインで入手可能になったものを主に取り扱うものとする.他種のデータ,特にペーパーメディアで入手するものについては,安形(1996)に詳しく記したのでそちらを参照されたい.

 官公庁の水文観測としてすぐに思い浮かぶのがAMeDASをはじめとする気象庁の観測であろう.全国に張り巡らされた約1,300箇所の地域気象観測所(最もデータが揃っている「4要素」観測所約800地点では降水・気温・風向風速・日照)と約150の気象官署(前記のほかに,放射・蒸発・雲量等)に関するデータがある.これらのデータは,古いものでは1870年代からdaily,マイクロフィルム化されてからは3時間毎,AMeDAS化された1976年以降は毎時のものが使用可能である.

 気象庁のデータは,古くから各気象官署にて閲覧が行われ,現在では比較的安価に財団法人気象業務支援センターを通じて

による入手が可能になっている(データの詳細・各ボリュームの内容等詳しいデータはhttp://www.jmbsc.or.jp/参照).これらは観測から多少の日時(3ヶ月ほど)を経て入手可能となるので,たとえば「つい先日の豪雨のデータが欲しい」となると従来どおり直接気象官署に行くか,または昨年末に開始されたメテオiNETというInternetデータ取得サービス(観測後1週間程度でデータが利用できる)を利用することになる.後者は会員制をとっておりその料金体系は種々あるが,ためしに使う程度なら月¥1,000である(詳細はhttp://www.jmbsc.or.jp/minet/annai.htm参照).

 さらに即時性を求めるなら,同センターを通じて,気象庁回線を流れる即時値データをオンラインで得ることが出来るが,全国版では最低月¥130,000,地方版でも一回線あたり月¥14,700と多少値は張る.

 さて,気象庁と並んで水文観測を最も多く行っている官公庁が建設省である.1995年に財団法人日本河川情報センターが調査した結果によると(http://wdb-kk.river.or.jp/zenkoku/0105.htm),建設省が観測している雨量観測点は2,885箇所で,これは気象庁の2倍以上に達する.また,建設省データの特徴は水位観測所,特に流量データを長期間現業で測定している観測所が多いことであり,これらのデータの水文学的な価値は計り知れない.かつてはこれらのデータは,「雨量年表」「流量年表」(一級河川の流量)のペーパーメディアとして公開されていた.またこれとは別に「多目的ダム管理年報」(建設省直轄・水資源開発公団管理・都道府県管理のダムについての降水量・流量データ)や「水資源開発等施設管理年報」(水資源開発公社管理ダムについての同種のデータ)もあった.これらのデータはいずれも1年分が¥1万弱〜¥数万するという高価なものであった.

 現在では,建設省の持つ膨大な水文データのうち,特に前記「流量年表」「雨量年表」に掲載された一級河川降水量流量データにおおむね該当するものに加えて水質データがInternet経由で公開されている.これが「建設省水文水質データベース」(http://wdb-kk.river.or.jp/zenkoku/)である.特に降水量と水位についてはほぼリアルタイムでデータが更新されており,利用価値は非常に高いであろう(ただし検定をしていない速報データ).一方,流量についてはデータの検定が行われた後に公開されるので多少のタイムラグはある.データのある時間範囲は,それを管理する地方建設局によって多少違うが,たとえばおおむね1990〜1995年程度は揃っている(全体では1986〜1998年まであるようであるが,全部のデータを見たわけではないので未確認である).なお,近年の雨量年表・流量年表にはFDが付属しているので,新しいデータを得たい場合はそちらを利用できるかもしれない.雨量年表・流量年表自体は昭和10年代以来の歴史があり,この貴重なデータのデジタル化が強く望まれる.

 また,建設省管理・都道府県管理各河川についての長年統計データ(災害・流況・流域人口等)は建設省河川局のWWWサイトに公開されている(http://www.moc.go.jp/river/toukei/index.html).そして,このようなデータへのリンクへは河川情報センターのWWWサイト(http://www.river.or.jp/)からリンクをたどることが可能である.

 さて,レーダ雨量データ・テレメータ・ダム水位等を包括的に含む建設省データについてもオンライン即時データ入手が可能である.これが河川情報センターの提供するいわゆるFRICSデータで,ダム管理などによく用いられるので眼にした方も多いであろう(内容についてはhttp://www.river.or.jp/gaiyo/about/04.html参照).しかしこれは初期投資が極めて高価で(標準型端末の場合¥169.2万:http://www.river.or.jp/365/365-4/02.html)ある.

 以上に加えて,上記河川情報センター調査によると二つの調査主体が多くの水文観測を行っていることが分かる.一つは通産省で,これについては本研究会にて発表されるので省略する.もう一つは各地方自治体で,水位観測・河川水質測定の地点数(それぞれ3,252,4,918)は建設省のそれらをはるかにしのぐものである.しかしこれらの取りまとめ・検定・デジタル化・公開については未だ不十分であると思われる.

 上記に見たように,最も長期にわたって系統的にデジタル化が行われている現業データは気象官署のもの(約40年間)であるが,たとえば降水量の経年変化を検討する場合ではそれでは不十分な場合が多々ある.そこで各研究者が独自にいわゆる「打ち込み」を行っていると思われる.例えば,沖ら(2000)では1960年以前の東京における日降水量を自前でデジタル化し,東京における大雨の経年変化を検討している(沖らもその中で「これまでの観測された降水量−マイクロフィルムには観測開始以来の3時間降水量が記録されている−をデジタル化することの必要性を主張したい」と述べている).極端な例では,1989年まで平均57年分の主な気象観測所(165ヶ所)の日降水量データをデジタル化したデータセットを作成した国立研究機関がある(沖,私信による)が,これほど大規模なものではないにせよ似たような努力は多くの研究者・グループが傾けてきたであろう.

 このように研究者ないし研究組織の私的努力により作成されたデータセットは,もともと他人が使うために作られたものでない場合が多いし,またデータのQCの程度にそれぞれの間で大きな差があるであろうから,データセットがあるからといって簡単にそれを使わせてもらえるとは限らない.しかし,それでは各研究者が全く同じ努力を独立して重ねるのがいいのかというととうていそうは思えない.何らかの組織的取り組みによりこれら膨大な現業データをデジタル化し,公開する取り組みが行われるべきだという思いは,おそらくは筆者を含めてそのような作業を行う羽目になった研究者に共通のものであろう.この点からも,本研究会の今後の活動に大いに期待するものである.

引用文献:


公開文書ページへ| ↑↑トップページへ



agata@iis.u-tokyo.ac.jp