4-2 複雑地表面における,熱・水・二酸化炭素フラックス -タイにおける観測-



4-2-1 目的
当研究室では,複雑な地表面での熱・水・二酸化炭素の流れを調べるために,タイにおいて水文気象観測を行っています. この観測の目的を,もう少し詳しく見てみると,以下のようになります. また,観測場所は,タイ北部ターク県EGAT Flux観測タワーです. これは,複雑地表面(落葉広葉樹林,草地,水田,トウモロコシ畑)における熱・水・二酸化炭素のフラックス観測を目的として設置されたもので, タイ発電公社の高さ120mのタワーに観測機器を設置した(2002年7月)ものです.


図4-2-1 世界のフラックス観測ネットワーク


4-2-1 フラックスとは?

@熱のフラックス
地表面における熱の交換量のこと.

Rn = H + LE + G

・Rn は正味放射量 (太陽や大気から放出されるエネルギーのこと)
・H は顕熱フラックス (空気を直接,加熱または冷却するエネルギーのこと)
・LE は潜熱フラックス (蒸発,凝結に伴いやりとりが行われるエネルギーのこと)
・G は地中熱流量 (地中を加熱/冷却するエネルギーのこと)


図4-2-2 熱のフラックス


A水のフラックス
地表面における水の交換量のこと

P = E + R + I + ΔS

・P は降水量
・E は蒸発量
・R は表面流出量
・I は地中での流出量
・ΔS は貯留量変化


図4-2-3 水のフラックス


B二酸化炭素のフラックス
地表面における二酸化炭素の交換量のこと

昼間は植物が,光合成により二酸化炭素を吸収し,土壌中の微生物が呼吸により二酸化炭素を放出する. 夜間は植物も土壌中の微生物も呼吸により二酸化炭素を放出する.

二酸化炭素の吸収・放出 昼間 夜間
植物 吸収(光合成) 放出(呼吸)
土壌中の微生物 放出(呼吸) 放出(呼吸)



図4-2-4 二酸化炭素のフラックス


4-2-3 熱・水・二酸化炭素フラックスの測定方法 -渦相関法-
渦相関法について簡単に紹介します.熱や水蒸気,二酸化炭素の変動を

・ 0.1秒より追従性の早い風速計・温度計(超音波風速温度計;下の写真)
・ 水蒸気・二酸化炭素分析計(赤外線水蒸気二酸化炭素分析計;下の写真)

を用いて測定します.そして,

・ 瞬間・瞬間の風の鉛直成分
・ 気温・水蒸気量・二酸化炭素量の変動成分

を連続記録にとります.これを,計算機を用いて平均します. そして,それぞれの共分散を求める事により,各フラックスを算出する方法が渦相関法です. 例えば下の図4-2-5を注意深く見ると,

・ 細かな早い変動のほかに,10〜20秒ぐらいの周期を持つ変動も含まれる
・ w(風速鉛直成分)とT(気温)の間には正の相関関係がある

ということが分かります. つまり,Tが大きくなったときwは正(上向の風)となり,Tが小さくなったときwは負(下向きの風)となる傾向があるのです.
したがって,暖かい空気は上昇し,冷たい空気下降します. このように,温・冷気塊が上下に交換することによって,地表面から上空へ熱が運ばれていることになります. この仕組みを顕熱輸送といいます. (「地表面に近い大気」,2000,近藤純正著)


図4-2-5 風速の水平成分・鉛直成分と気温の記録例(地上2m)


4-2-4 観測タワー
観測タワーは下の写真の様なところにあります. また,その周辺は,図に示すように複雑な土地被覆の分布となっています.


図4-2-6 タワーと周辺の様子(左)および周辺の土地被覆分布(右)


4-2-5 測器の設置状況
下の図に示す通り,タワーの高さ30m,100mの各位置に測器が設置されています. 高度30mの位置には超音波風速温度計が,100mの位置には超音波風速温度計と放射収支計が設置されています.


図4-2-7 タワーの概要(左),超音波風速温度計(中,右上)および放射収支計


観測で得られたデータは,携帯電話とインターネット回線を利用し,韓国の延世大学を経由し,東京大学まで送られてきます.


図4-2-8 携帯電話・インターネットを利用した観測データの転送


4-2-6 乾季と雨季での周辺地表面の違い
下の2枚の写真は,どちらもタワーの周辺を撮影したものですが,乾季と雨季とでは大きな違いが見られます. 長期間に渡り観測を行うことで,乾季と雨季の違いを見ることが可能になります.


図4-2-9 タワー周辺の様子,左=乾季,右=雨季


4-2-7 蒸発量と土壌水分の月平均値の変化 (データ解析の例)
7,8月は雨季で蒸発散量は3mm/dayほどです. また,乾季の1,2月は蒸発散量が2mm/dayほどになりますが,3月からは土壌水分量の増加とともに 蒸発散量が増加してゆくという変化が見られました.


図4-2-10 蒸発散量土壌水分の月平均値の変化


4-2-8 季節ごとの二酸化炭素フラックスの日変化 (データ解析の例)
7,8月の雨季には,日中に大きな負の二酸化炭素フラックス(吸収)が見られる. これは植物の光合成による吸収だと考えられます.


図4-2-11 雨季の二酸化炭素フラックスの日変化


一方,1月から3月の乾季には,昼間を除き正の二酸化炭素フラックス(放出)が見られます. これは土壌中の微生物による呼吸の方が,植物の光合成による吸収を上回っているからと考えられます.


図4-2-12 乾季の二酸化炭素フラックスの日変化