3-1 東京における明治以来の時間降水量特性



3-1-1 背景 - 近年,雨の降り方が変わってきているのか? -
近年,降水状況が変化していると言われています.一般に言われているメカニズムは,

 地球温暖化・都市化 → 水文サイクルの活発化・対流活動の活発化 → 集中豪雨の増加・降雨の年々変動の激化

と考えられています. 最近の降水状況の変化をみるには,時間降水量を用いなければ分からないものの,既往の研究では日雨量が用いられてきました. そこで,本研究では,明治以来の東京における時間降水量特性を解析し,降水パターンの変化の様子を追究しました.


3-1-2 時間降水量データのデジタル化
時間降水量についての解析を行うには,それなりのデータが必要ですが,実際にはそのようなデータはほとんど存在しません. しかし,東京(大手町)のデータに関しては1890年から存在しています. そこで,私たちはこのデータを用いることを考えましたが,ここでひとつ問題が生じました. 実は,1975年以前のデータはデジタル化されたものがありませんでした(1976年以降はAMeDASが稼動). そこで,私たちは,気象庁のマイクロフィルム投影機に記録されているデータをデジタル化するところからはじめました. この作業は,マイクロフィルムの中身を読み取り,手で書き下ろし,それを打ち込むという方法を取りました.


図3-1-1 マイクロフィルム投影機


図3-1-2 大変な手作業の痕跡


図3-1-3 そしてデジタル化


3-1-3 夕立の経年変化
デジタル化したデータをもとにいくつかの解析を行いましたが,はじめに夕立の経年変化について紹介します. 夕立の回数を見てみたところ,以下の図にあるように,近年に近づくにつれて目立って増えているなどの傾向は見られませんでした. 1940年代は豪雨と夕立の回数が多くなっています. また,現在の夕立のピーク時刻は1940年代に比べて早いことが分かります.


図3-1-4 豪雨(20mm/h)の降った時間帯ごとの回数の経年変化



3-1-4 豪雨の経年変化
次に,豪雨の経年変化についてみてみます. 以下のグラフについてみてみると,これまで時間降水量のデジタルデータが存在した1975年より最近については, 確かに,言われているような豪雨の増加が見られますが,それ以前のものも合わせて見てみると, それよりも大きな変動が見られ,近年の雨の降り方の変化が,特に大雨の増加とは言えないであろうことが分かりました. 増加のトレンドは1940年代がピークで,約50年の長期的変動がありそうですが,一貫性は見られません.

なお,表3−1−1に,降雨強度とその降り方の状況を示しました.

図3-1-5 豪雨の強度の経年変化



図3-1-6 豪雨の回数の経年変化


雨の強さ(mm/h)状況
〜1道路が湿る程度
1〜5地面が濡れる
5〜10雨の音がよく聞こえる
10〜20ザーザーと降る,
雨の音で話し声が聞き取りにくい
20〜30土砂降りで側溝があふれる,
傘をさしていても濡れる
30〜50バケツをひっくり返したように降る,
道路が川のようになる
表3-1-1 雨の強さの説明



3-1-5 ひと雨の経年変化
こんどは,ひと雨の経年変化です. まず,「ひと雨」を定義しますが,降り始めから降り終わりまでを「ひと雨」とし,無降水時間があった時に,「ひと雨」が終わるものとします. 図3-1-7はひと雨の経年変化を見たものですが,わずかずつ,増加傾向にあることが分かりました.


図3-1-7 年平均降雨強度(ひと雨)の経年変化


次に,私たちは,独自の驟雨(しゅうう:急に降り出して,間もなく止んでしまう雨.にわか雨.)指標(P/D)を設定しました. 図3-1-8はこれを表したものですが,これもわずかずつ増加傾向にありそうです.


図3-1-8 年平均降雨強度(ひと雨)の経年変化


3-1-6 豪雨の要因別分析
さらに,豪雨の要因別分析をしてみます.図3-1-9は梅雨と台風の経年変化を見たものです. 上段は,東京に襲来した台風を示したものです. 青線から右側は,『台風の事典』(気象庁監修)から日時を特定しています. 一方,下段は,気象庁による梅雨入り宣言から梅雨明け宣言までの期間を示したもの(右側,青色)と, 時間降水量データから独自に特定した梅雨の期間(左側,緑色)を示しています.


図3-1-9 梅雨と台風の経年変化


次に,20mm/hを超える豪雨の回数を要因別にしたものの経年変化を図3-1-10に示します. 図3-1-9および図3-1-10から,台風の発生数や東京圏内に達した台風の数には経年変化がないことが分かります. また,梅雨による豪雨にも大きな増加傾向は見られません. それにもかかわらず,台風による豪雨の増加が見られ,豪雨が発生しやすくなっているということが考えられます.


図3-1-10 豪雨の要因別回数の経年変化


このように,色々な解析をしてみましたが,豪雨の増加ということに関しては,これまでのところ目立った変化はあまり見られていません. 今後,さらにいくつかの視点から分析をしてみたいと考えています.