2-1 雨はどこからやってくる? -水の安定同位体の利用例-



2-1-1 背景
みなさんは,雨の日に,「いま降っている,この雨は,一体どこからやってきているのだろう?」と考えたことがないでしょうか? 多くの人が,このような疑問を持ったことがあるのではないでしょうか? そこで,未だに明らかにされていない,「雨となって降ってくる水は,地球上をどのように巡って,どこに到達しているのか?」 という疑問に対して答えを見つけるために,コンピュータ上で,水を発生地域ごとに区別して,その循環をシミュレートしてみよう, というのがこの研究です.


2-1-2 水蒸気起源別循環解析
外部データを用いて,水蒸気(可降水量),蒸発量,降水量,水蒸気フラックス(垂直積分値,水平2成分)を与えます.(図2-1-1)
→今回の使用データ:@GAME再解析(1998/4/1-10/31)
A気象庁GPV(2002/7/9-)
→データセットの精度は,同位体を用いて調べます(2-1-4で紹介).



起源別に色分けした水蒸気の循環の様子(@GAME再解析を使用):
→次の2行をクリックしてアニメーションをご覧ください.
T. 全球における循環の様子(全球12分割) … 図2-1-2
U. モンスーンアジアにおける循環の様子 … 図2-1-3



図2-1-1 水蒸気起源別循環解析の構築


下の図2-1-2では,モンスーン地域の雨期に入る前後の違いを示しています.雨期に入る前の5月1日の図(左)では, 全球的に南北の対称性が見られます.しかし,8月1日の図(右)を見ると,アジアモンスーン地域でのみ,インド洋の南側を起源とする水蒸気が 北半球へ大きく入り込んでいる様子が見られます.


図2-1-2 1998年5月1日と8月1日の起源別水蒸気の分布 (全球)


図2-1-3では図2-1-2と同日のアジアモンスーン地域をさらに拡大して示しています. この図を見ると,8月にインドシナ半島に到達している水蒸気は,インド洋起源のものが, ベンガル湾・アラビア海の水蒸気を取り込んでやってきていることが分かります.


図2-1-3 1998年5月1日と8月1日の起源別水蒸気の分布 (アジア・モンスーン地域)


2-1-3 今日の雨の起源を探る
日本気象庁予報モデルによるGPV(Grid Point Values)データを用いて,今日降っている雨がどこからやってきているのかを調べます. 図2-1-4は,2003年5月30日(オープンハウス直前)時点でのアジアモンスーン地域の各地点を起源とする水蒸気の循環の様子です. 黄色はベンガル湾を起源とする水蒸気を表していますが,これがすでにインド洋に取り込まれている様子が見えます. モンスーンの雨期がすでにオンセット(開始)していると考えられます.


図2-1-4 気象庁GPVデータを用いた場合


ここで,日本気象庁モデルによるGPVとは何かを説明しておきます. これは,日本での実際の予報に用いられているグリッドデータのことで,全球,領域(日本域)などがある,メソ(領域より詳細)があります. TBSの「雨足くん」などで活躍中です. 下の図2-1-5では,東京上空の水蒸気の起源別の内訳と,時系列変化を示しています. 期間は2002年7月9日から準リアルタイム(オープンハウス直前)までです. 夏季には太平洋を起源とする水蒸気(赤色で表示)が多いのですが,冬季にはこれがほとんどなくなっています.


図2-1-5 日本気象庁予報モデルによるGPV


2-1-4 降水同位体比を用いた検証
ここでは,地球を1.25度×1.25度の格子状に区切って考えます. それぞれの格子の中で同位体比を計算します. 蒸発時は,同位体の分別はないものとし,海や陸の起源ごとに決まった同位体比を与えます. 一方,凝結時には,レイリー式を用いて同位体の分別を行います. この計算を,時間を進めながら繰り返していくことにより,水蒸気に含まれる同位体の割合を求めます.


図2-1-6 同位体を用いた検証のイメージ図


図2-1-7の左ではチェンマイ,スコタイ,バンコクというタイの3都市での日単位の同位体観測値と推定値の比較を表しています. これを見ると,非常に高い精度で再現されていることが分かります. また,右側はGNIPによる全球での月単位の観測値と推定値の比較結果を示しています. 上の図は,観測値と推定値の誤差の分布を,下の図は観測値と推定値をプロットした散布図を示していますが, こちらもよく再現されていることが分かります.


図2-1-7 GAME再解析を用いた場合の検証