1-3 Virtual Water 〜世界の水資源,各地域における依存度〜



1-3-1 背景 -Virtual Water(仮想水)とは?-
私たちは,日常生活において,たくさんの水を使っています. トイレ,風呂,洗濯など,洗浄のための水,そして,飲料水や料理に使う水など,目に見える形で直接的に消費しています. その一方で,水資源は,私たちの生活に関わる様々なものを生産する過程においても利用されています. したがって,そのような生産物を使うということによって,私たちは間接的にも水を消費しているのです. このように間接的に消費される水のことをVirtual Water(仮想水)と呼びます. 近年,社会的にも急速に関心が高まっている概念です.


図1-3-1 高まる関心〜京都新聞(2002/05/8)
 
Virtuarl Waterという考え方は,
1990年代以降提唱されてきました.
London大学のJ. Anthony Allan教授は
「水資源の地域的な偏りは
食糧の輸出入を媒体とす
る地域間の移動により
緩和することが可能である」
としています.
これがVirtual Waterと名づけられ,
世界中で受け入れられつつあります.
当研究室でのVirtual Waterの研究…

身近なVirtual Water
食糧生産などに必要なVirtual Waterの定量的な研究


世界で見るVirtual Water
Virtual Waterが世界の水不足を抑制しているのか?



1-3-2 身近なVirtual Water
私たちの身のまわりのほとんどのものが,その生産に水を必要としています. 特に,食糧品は工業製品などと比較しても,大量の水を必要とするので,ここで取り上げることにします. 穀物,畜産物の生産に必要な水の量(原単位)は以下の式で表されます.


仮想投入水量(穀物の場合)= 1日の灌漑水量×耕作面積×栽培日数

収量×可食部


仮想投入水量(畜産物の場合)= 親から受け継いだ間接水+間接投入水(飼料の直接投入水)+直接投入水

個体重量×取れる肉量


この式に従って,日本での食糧生産におけるVirtual Waterを算出してみたものが,下の図です. 数字は,1トンの食糧を生産するのに,何?の水が必要であるかを表しています.


図1-3-2 穀物原単位の例


これらの,食糧生産に伴うVirtual Water消費量の原単位を基にして, ファーストフードのメニューで見た場合のVirtual Water消費量を計算してみたのが,次の図です. みなさんの中にもこういったメニューの食事を選ぶ機会のある方がいらっしゃると思いますが,この数字を見ていかがでしょうか? Virtual Waterの消費量は多いとお感じですか? さて,ここでひとつおもしろいことをご紹介しましょう. 図の,ハンバーガーのメニューとテリヤキバーガーのメニューを見比べてみると,テリヤキバーガーの方がVirtual Waterの消費量が少ないことに気づかれるかと思います. この理由は・・・実は,テリヤキバーガーは豚肉を使っているのです. そのため,牛肉を使用しているハンバーガーよりもVirtual Waterの消費量が少なくて済むのです. ひと口に「肉」といっても,その種類によって,Virtual Waterの消費量はかなり違ってきます.


図1-3-3 ファーストフードのメニューで見るVirtual Water消費量


続いて,同じく,食糧生産におけるVirtual Waterの消費量を基にして,日本人の標準的な食事の内容から, 日本人1人あたりの食事における,過去から現在に至るVirtual Waterの消費量推移を見てみたものが次の図になります. 米の摂取に伴うVirtual Waterの消費量にが減り,肉の摂取に伴うVirtual Waterの消費量が大きく伸びてきていることが分かります. 近年では肉のVirtual Water消費量が,米のVirtual Water消費量を上回るようになってきました.


図1-3-4 日本人1人あたりのVirtual Water消費量の推移


輸入大国である日本での,食糧品輸入に伴うVirtual Waterの移動を見てみると, 実は日本全体の水資源量の1.15倍にも及ぶVirtual Waterを輸入していることになり,決して無視できる数字ではないことが分かります.


1-3-3 世界で見るVirtual Water
さて,今度は世界のVirtual Waterの移動について見てみます. 果たして,Allan教授の言うように水資源の地域的な偏りは,本当に緩和されているのでしょうか?

まず,ここでVirtual Waterを2つに分類してみます. 日本がオーストラリアから農作物を輸入する場合を考えます.


図1-3-5 Virtual Waterの移動と分類


現実投入水
オーストラリアで農作物を作るために使った水 (輸出国ベース)

仮想投入水
もし同じ農作物を日本で作っていたら必要であった水(輸入国ベース)
これらのVirtual Waterのうち,穀物生産に関する分の世界的な移動を表したものが図1-3-6,図1-3-7です.


図1-3-6 現実投入水の移動 (輸出国ベース)


図1-3-7 仮想投入水の移動 (輸入国ベース)


では,これらの移動を考慮すると,どのようなことがいえるでしょうか? 図1-3-8は,Virtual Waterの移動を考えない場合に,水資源が極めて逼迫しているとされる国を分類したものです.


図1-3-8



水資源が極めて逼迫しているとされる国々を,1人あたりGDPによって分類し,上に述べたVirtual Waterの移動を考慮した結果が上の図ですが, 赤で表示されている,極めて逼迫している国が減っていることから,逼迫度が軽減されていることが分かります. しかし,1人あたりGDPが20,000ドルを超える経済的に豊かな国では逼迫度がかなり軽減されているものの, 1人あたりGDPが1,000ドル以下の貧しい国ではあまり軽減されていません. このことから,Allan教授の言うように,確かに水資源の偏りは,Virtual Waterの移動に伴い軽減していることが確認できましたが, 同時に,貧困国においては,軽減される度合いが小さいということが分かりました。