1-2 グローバルな河川モデルに結合するための貯水池操作モデル



1-2-1 背景 -世界のダムの影響はどのくらいあるのか?-

世界の大ダムの総貯水容量7,200㎦(総貯水容量300万㎥以上,または高さ15m以上のダム)
世界の河道内の平均貯留水量1,200-2,120㎦(ある瞬間に世界中の川の中にある水)
世界の河川の年間総流量35,000-40,000㎦(1年分の河口流量)
表1-2-1 世界のダムの貯水量と河川の水量との比較


この表から分かるとおり,世界中のダムに貯留している水の量は,河川を流れる水の量と比較して無視できるものではなさそうです. では,河川の流量はいったいどのくらい,ダム操作による影響を受けているのでしょうか? また,ダム操作は,水資源の安定化にどれほどの影響を与えているのでしょうか? これらの疑問を解決するため,私たちがこれまでに開発してきた全球河川流路網モデルTRIPにダム操作を取り入れ,河川流量への影響を定量的に評価しました.


1-2-2 世界のダムの配置
世界にたくさんあるダム・貯水池のうち,総貯水容量10億㎥以上のものを採用しました. それらの位置(緯度・経度)を地図でひとつひとつ手作業で確認し,プロットしたものが図1-2-1です.



図1-2-1 世界の大ダムの位置


大陸ダムの数貯水池の数判明した数判明率(%)貯水量(㎦)
アフリカ51454395.6704
アジア24218615482.81520
北米32918115485.11208
南米102847285.7748
欧州109978890.7531
世界83359351186.24711
表1-2-2 確認した世界のダムの位置と貯水容量等


1-2-3 ダム操作のモデル化
私たちは,ダム操作には,一定のルールを適用することが可能であると考えました. ダムを操作する目的としては,流量の季節変動や年変動を緩和することが挙げられます. 雨の多い季節(年)には水を貯め,雨の少ない季節(年)には水を放流します. これに加え,貯水池があふれる危険性がある場合には,追加的に放流を行うものとします.


図1-2-2 ダム操作の考え方


灌漑を主目的とするダムでは,さらに,下流の灌漑農地に農業用水を供給します. この供給量は

 供給量=必要水量−雨量

で定義します.貯水池の貯水量によっては放流を節約します.


図1-2-3 灌漑用水のう必要量の考え方


1-2-4 ダム操作の影響 〜コロラド川のケース〜
コロラド川は,大都市ロサンゼルスや大農業地帯カリフォルニアバレーに水を供給し,高度な水資源開発がなされていることで知られています. 図1-2-4はコロラド川流域のTRIPの1度の格子網を表しています.ここでのシミュレーション結果を以下に示します.


図1-2-4 コロラド川流域の流路網(1度格子)
(●:Glen Canyon Dam,▲:Little Colorado流量観測所,■・★:その他の貯水池)


図1-2-5はGlen Canyonダムにおいて,流入量の観測地を入力としてシミュレーションを行った結果です. この結果を見ると,ダム操作モデルは単純でありながら,放流量,貯水量の長期変動を再現していることが分かります.


図1-2-5 Canyonダム(黒:放流量・計算,青:放流量・実測,赤:流入量)
(総貯水量:333億㎥,主目的:発電,平均流入量:463㎥/s)


図1-2-6はダム操作を考慮した場合と,考慮しなかった場合の流量シミュレーションの比較です. ダム操作を操作することで,流量の季節変動の再現性が向上していることが分かります. ここで,約20%の過大評価となっているのは,流出データの精度に問題があったためです.


図1-2-6 コロラド川,Little Colorado合流点での流量の比較
(黒:ダム操作なしの計算値,青:ダム操作ありの計算値,赤:実測値)
(実測流量:34mm/year,計算流量:43mm/year[ダム操作なし],42mm/year[ダム操作あり])


このように,ダム操作の影響を考慮することにより,全球河川流量のシミュレーション精度が向上することが分かり, 今後もさらに制度を高めてゆく予定です.