1-1 世界水資源のモデリングとアセスメント



1-1-1 世界的な水危機が叫ばれているが,本当だろうか?
近年, といった理由から水資源が逼迫している,あるいは今後さらに逼迫してゆくと言われており, さらに21世紀は飢餓の世紀であるとか,今後,水をめぐっての国際紛争が勃発するのではないかと言われています. こういったことを考えてみために,地球規模で水資源を把握したり,将来の予測をするには, モデル化や数値シミュレーションといったことを行います.


1-1-2 水資源のモデル化
モデル化の計算を行うために,地球を格子に分割します. その上で,地上観測,衛星観測,気象モデルなどによる過去の評価と,気候モデルの長期積分による将来予測といったことを行います. 気象条件(降雨,気温など)の格子データを用いて,陸面過程モデル(図1-1-1)の計算を行い,分割された各格子からの流出(降雨−蒸散)を求めます.


図1-1-1 陸面過程モデル(1格子のみの模式図)


さらに,全球河川流路網モデルTRIPを用いて河川の流量を計算します. この流量を水資源の量とみなすことで,全球0.5度での水資源モデルが出来上がります.


図1-1-2 全球河川流路網モデルTRIP


1-1-2 水需要量のモデル化
次に,水需要量のモデル化についてです. こちらも,同じく0.5度格子で行います. 国別の取水量統計データを基にします. 生活用水・工業用水の取水量と人口の統計から1人あたりの取水量を計算し, 農業用水の取水量と灌漑農地面積の統計から灌漑農地面積あたりの取水量を計算します. これらに,人口の分布や灌漑農地の分布を与え,グリッドデータに置き換えたものから, 生活用水,工業用水,農業用水の需要の分布を求めることができます. このようなモデル化において,将来予測をする場合,現在と将来とではさまざまなことが異なってくることが予想されます. このような違いのうち,何を考慮するのかといったことを考えたものが下の表です. ここでは,人口,原単位,気候がそれぞれ変化する場合,しない場合を場合わけしています.


図1-1-3 モデル化のフロー


シナリオ人口の変化原単位の変化気候の変化
シナリオ1××
シナリオ2×
シナリオ3×
シナリオ4
表1-1-1 各シナリオで考慮されている要素の違い

  • 人口の変化:人口の変化に伴い農業用取水量も増加させる
  • 原単位の変化:1人あたりが消費する水の量を変化させる
  • 気候の変化:地球温暖化が進むと仮定して,水資源量を変化させる


1-1-3 水資源モデルによる結果の例
以下の図では,上記のような考え方によって計算した結果を示します. この例ではシナリオ4(人口の変化,原単位の変化,気候の変化のすべてを考慮)を採用しています. 上の図は,1990年における,水資源量に対する取水量の割合の推定結果を示しています. その下の図は,2050年での予測結果を示しています. そして,その下が,1990年から2050年までの変化を示しています. アフリカや中近東,南米などで水資源の逼迫度が深刻化することが予測されています.


図1-1-4 1990年の水資源利用率 (水資源量/取水量)



図1-1-5 2050年の水資源利用率



図1-1-6 1990年から2050年までの変化率


1-1-4 人間活動を取り入れる
実際の河川を考えた場合,その途中にはダムがあり,人々が生活用水や灌漑用水を取水をすることにより水は減少します. そこで,全球河川モデルには,このような影響を考慮しなければなりません. 現在は,これらの世界水資源における人間活動が,まだモデル化されていなかったり, あるいは,モデル化されていても,総合的な世界水資源モデルには組み込まれていなかったりします. そこで,これらのモデル化や,河川モデル,陸面過程モデルを含めた相互の影響を考慮することで, 水資源のモデルが,より精度の優れたものとなって行くと考えられます.

主なモデル主な構成要素
TRIP(河川モデル) ⇒ 海洋ダム操作パート,取水計算パート
陸面過程モデル ⇔ 大気蒸発散計算パート,復帰水計算パート
水需要モデル灌漑用水計算パート,都市用水計算パート
表1-1-2


1-1-5 流路網の格子を細かくする
これまでは,全球河川モデルの格子網は1度,そして0.5度のものを用いてきました. しかし,以下の図に示すとおり,この空間解像度はまだ粗いもので,モデルの推定精度の向上にはさらに細かい格子網が求められます. 一番したの図は,利根川流域について,試作的に0.1度の格子網を描いてみたものです. 河川網がより現実に近いものとなったことが分かります. 今後,このようにより細かい格子のモデル化を進め,推定精度の向上につなげて生きたい考えています.


図1-1-7 1度版 (Oki & Sud, 1998)



図1-1-8 0.5度版 (岡田, 2000)



図1-1-9 0.1度版 (試作)


ちなみにですが,1:500,000の地図を利用して行ったこの0.1度版の格子網の作成には,約5時間を費やしました.