流域水文学の領域

水循環数値解析モデル

モデルとは、大気・地表面・地中における水循環を物理的な数式で表現したもの です。 GIS・リモートセンシング等の最新の技術を利用し、主にコンピュータによる数値的に 計算を行います。 モデルを使うことにより、洪水・渇水の予測・再現・評価を行い、水循環の時空間にわたる 全体像を把握することが可能になります。

GIS/RS利用による水循環モデリング

地理情報システム(GIS)は地理情報の検索、処理、解析、表示を行うツールであるが、このGISを利用 して、多数の地理的に分布したデータを用いるような分布型の水循環モデリングを千葉県前原川を対象に行った。 また、前原川流域に雨水浸透施設(浸透トレンチ)を設置し、その効果をモデルによって検証した。
図1:浸透施設の設置箇所(100mに1つ設置)
(青が設置箇所)
図2:浸透施設設置前の表面流出量累積地図
(青が表面流出量の多い箇所。黄色は河川)
図3:浸透施設設置後の表面流出量累積地図
(青が表面流出量の多い箇所。黄色は河川)


図1のような位置に浸透施設を設置することにより、図2に示されるような表面流出量が図3のように減少していることが わかる。
GISを利用した本モデルは結果をこのように地図で確認することができるため、浸透施設設置の効果を捉えやすい。この実験では 浸透施設を宅地のグリッドに一様に100mずつ設置したが、表面流出量の累積状況を地図によって示すことを利用し、浸透施設の 効率的な設置量を提案することも可能である。
谷本信也 1995 :流域管理のためのGISを用いた水循環モデリング 東京大学修士論文

流域面積関数を導入した斜面単位・分布型水文モデルの開発と適用

図は全てクリックすると大きくなります

本研究の目的は
1)空間非均一性
2)物理的水文過程
3)広域な流域への適用性(大幅な計算時間の短縮)
の3点を備えた新たな種類の水文モデルの開発である。またそのために、流域の地形学的な性質の 解析、モデルとしての表現方法、モデルの検証、モデル感度の解析、適用性を考えたモデルの コンセプトの開発を行った。
中規模の流域への本モデルの適用の検証の為に湿潤地帯に位置する日本の3河川、関東地表の渡良瀬川 、北陸地方の関川、四国の那賀川において数値シミュレーションを行った。
これらの河川の流域規模は約700から1200km2で、流域内において密な気象観測が行われて いる。
次に大流域への適用として、熱帯モンスーン地帯に属するタイのチャオプラヤ川流域における シミュレーションを行った。対象流域の広さはおよそ110000km2である。 (流量観測地点はNakhon Sawanより上流)
これらの結果をグリッド・分布型水文モデル(IISDHM)と比較したところ、本研究による斜面単位・ 分布型水文モデル(GBモデル)は流量に関して同様の良い結果を示した。
最後に極めて広大な流域(regional規模)への適用可能性をみるため、有効な入力データが少ない メコン河下流域を対象としたシミュレーションを行った。その対象流域は約400000km2で 、気象データは非常に限られている。
1989年から1990年まで時間単位でシミュレーションを行ったところ、妥当な河川流量を 得ることができた。
(結果の一つである中川でのシミュレーション結果)

以上の結果から、本モデルは長期間シミュレーション、洪水シミュレーションどちらの目的に おいても、様々な規模、気候特性を持っている異なる流域に適用可能であると言える。
Yang, D. 1998 :流域面積関数を導入した斜面単位・分布型水文モデルの開発と適用 東京大学博士論文

斜面単位の侵食過程モデル

本研究の目的は新しい侵食過程モデルの開発である。このモデルは土壌の総流出量 の算定のみならず、時間単位での堆積の変化量を時間-堆積量グラフの形で出力し、従来の侵食過程モデルでは 土壌浸食の予測計算が困難であった比較的大きい領域における適用を目標としている。

侵食過程モデルの開発は、まず対象流域における地表流と河川流出をインプットとして侵食モデルに与える 流出モデルの設定が基礎となる。比較的モデルの計算時間が短縮できる、1次元支配方程式を用いた斜面単位流出モデルが この研究では用いられた。次に水路、小川、河道などの構成要素が加わっている侵食モデルを その流出モデルに組み込んだ。

タイのナン川流域でこの侵食過程モデルの検証を行った。ナン川は流域面積が4609km2であり、北緯18度46分23秒、東経100度46分51秒に位置 する。 この研究では1日あたりの堆積量を基準としたため、1日あたりの流出量データを利用した。この流域には 雨量計が6個設置されており、流域の外だが許容可能な近郊に蒸発観測施設が1つ設置されている。 パキスタンのインダス川の準流域へこのモデルを適用し、インダス流域内での流出過程による堆積量の算定を行う事も検討中である。

この侵食過程モデルの開発は現在まだ初期段階である為、侵食部分の計算はまだ不十分であり結果を示すことは できない。しかし現在までの流出過程モデルの開発において得られた計算結果を左に示す。

normal size with click
HABIB Mughal, 2000 :斜面単位の侵食過程モデル 東京大学博士論文