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近年大陸スケールの地表面の乾湿が1ヶ月や2ヶ月といった中期の気象予測や
アジアモンスーンの強弱の年々変動などに影響を持つことが数値実験などによっ
て指摘されている。これを大気大循環モデル(GCM)で適切に再現、予測するた
めには、地表面におけるエネルギー・水収支を計算する陸面植生水文モデル
(LSM)の精度を向上させることが必要であるとの認識が高まっている。
SiB2は最新のLSMのひとつであり、植物群落による二酸化炭
素と水の伝達過程を現実的に
表現するための光合成・気孔抵抗スキームが含まれており、植生の季節変化を
考慮するため人工衛星データ(normalized difference vegetation index:NDVI)を
利用していることに特徴がある。さらに、キャノピー及び土壌における水文過程と、
雪面における融雪過程をより現実的に表現している。
ここでは、このSiB2を用いて、アジアモンスーン地域の地表面の熱、水収支を再現 することを考える。 | |
葉面積指数(LAI)に関して、小さい時期(LAI=1)及び大きい時期(LAI=5) について、SiB2による計算を行った。 その結果、LAI=5の時期については算定結果は比較的良好であったが、 LAI=1の時期については、 潜熱(lE)算定値は観測値と比べかなり小さく、顕熱(H)算定値はかなり大きい。 (Fig.1) オリジナルのSiB2では地表面貯留の容量が小さいため、現実には貯留されているはず の水が表面流出として失われるように計算されてしまう。 LAIの小さい時期はエネルギー、水の交換が主に地表面で行われるため、地表面から の蒸発が大きく、わずかな地表面貯留水はすぐに無くなり、土壌表層の乾燥が進むこ とになる。そのため地表面からの蒸発が減少し、潜熱が減少する。 |
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Fig.2は、温度算定値と観測値との比較である。 計算では表面貯留水がなく、水体による表面温度変化の抑制効果がないために、地温 が大きく変動している。そのため地中熱フラックス(G)が大きくなっている。 キャノピー温度算定値は、日中は観測値(IRT:赤外放射温度計による表面温度)に 近いが、夕方から明け方にかけてやや小さい。 夜間は熱フラックスがほぼ0であり、算定値と観測値とのずれによる影響はほとんど 見られないが、午前中における算定値の過小評価が潜熱の過小評価、顕熱の過大評価 に対応していると考えられる。 LAI=5の場合がLAI=1の場合と比較してlE、Hのずれが小さいのは、エネルギー、 水の交換が主にキャノピー層で生じ、潜熱全体に占める地表面からの蒸発の割合が小 さくなっているためであると考えられる。 | fig.2 スコタイ水田(LAI=5)における各層の温度の日変化のSiB2算定値と観測値との比較、 Tc:キャノピー温度、IRT:赤外放射温度計による地表面温度、 Tw:水体の温度、Tg:土壌表層の温度 (1998年10月27日) |
以上より、地表面の影響の大きいLAIが小さい時期に、オリジナルのSiB2では熱フラ ックスの日変化を適切に再現できないことがわかった。 そこでSiB2に水田スキームを組み込み水田対応モデル(SiB2-Pad)を構築した。 まず地表面の水の貯留容量を大きくし、モデルが現実の水の貯留量を再現できるよ うにした。また、貯留水の水深が土壌表層と比べそれ以上の厚さを持つため、 水体の温度を土壌表層の温度から独立した温度とした。水体の温度を導入することで 水体による貯留熱が算定できるようになった。 Fig.3に、に水体の有無による地表面エネルギー収支の違いを模式的に示す。 水体がある場合は、水体によって熱が貯留され、地温でなく水温によって熱フラックスが計算 される。 | fig.3 水体の有無による地表面エネルギー収支の違い、Rad: 地表面に入る正味放射-Lw、Lw,lE,H:地表面からの長波放射,潜熱,顕熱、G: 地中熱フラックス、Tw,Tg: 水温,土壌表層の温度 |
Fig.4は改良モデルによる10月27日(LAI=5)の各層の温度算定値と観測値の比
較である。
算定値では水温と地温の差がやや小さいが、この差のずれは水温算定値の観測値との
ずれと関係していることも考えられる。また差のずれが顕著でないことより、上記の
モデルをそのまま利用した。
Fig.5は8月26日(LAI=1)における熱フラックス算定値と観測値との比較で あるが、オリジナルのSiB2による算定値(Fig.1)と比べlE、Hが観測値に 近い。またlEが夜間にやや大きなプラスである。 | |
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熱帯水田にSiB2を適用したが、LAIの小さい時期はエネルギー、水の交換が主として
地表面で行われるため、窪地貯留程度の小さな貯水容量しか計算できないオリジナル
SiB2では、地面が乾燥し潜熱が過小評価されることがわかった。
水体を考慮したSiB2-Padを開発して適用した結果、潜熱の過小評価が解消され、熱フ
ラックス算定値が観測値に近くなった。
また、明け方に潜熱が小さく顕熱が大きく算定される時間が見られた。この時間はキ
ャノピー温度算定値が低めであり、それによるずれではないかと考えられる。
水温算定値は観測値と比べやや変動が大きく、絶対値も異なる場合が見られた。それ
によって、水体による貯留熱がやや大きく算定された。
またモデルにおいてキャノピー温度が実際より大きく計算された場合、 モデルにおける葉温依存性の効果によって、潜熱が抑制され顕熱が大きくなる結果が みられたが、それを防ぐためには葉温依存性のパラメータを調整する必要があること がわかった。 | |