はじめに
これは,2001年1月にあった東京大学生産技術研究所虫明・ヘーラト・沖研河川見学会(鶴見川)に先立って,フィールド調査の経験が少ない大学院生向けに調査旅行に必要なものを記した文章をベースに加筆訂正したものです.
基本的には,できるだけ多くの先達とフィールドを歩き,その装備・技術を「盗
む」そして改良することによって自分なりのスタイルが生まれてきます(ちょう
ど他人の書いたプログラムにいろいろなことを学ぶように).それは一生の財産
となることがらです.
なお,現在では極端にディープな(笑)フィールド用具は除いています.
初心者編[基本のきの字]
服装など
- 服装
- 寒さ暑さに耐えられて,乾きやすく,そして動きやすいものなら何でも
よい.夏の日差し・冬の風(とくに耳の防護)に対応できるように.ズボン
類は,膝を高く上げられるもののほうがよい.ま,常識の範囲で.
この種の用途に適した服は,さすがに登山用品店に多い.特に下着類.ちな
みに安形の冬の調査服装は,この下着だけが極端に高く,他はほとんどが ¥3000以下です(笑)
- 雨具
- どんな天候であっても必須.傘よりはカッパ類のほうが(手が自由にな
るので)よい.
- 履物
- 水の中に入るか,土の上を歩くかどうかで大きく変わってくる.一般的
には,晴れていれば軽登山靴・トレッキングシューズレベルで十分.極度に
転びやすいとか滑りやすいとかでなければ,あとは歩きがうまいかどうかだ
けの話なのでそれほど気にする(カネをかける)必要はない.
- その他日常用具
- タオルなど水や汗をふくものが必要.なお,人によっては日よけの帽子やサングラスも必携.
必要なもの
- 地形図
-
言っちゃ悪いが,現地で配られるような地図で使い物になるのはほとん
どない.流域地形の読み取りもできずに流域マネジメントなどできはしない
のに.
もっとも,現地で配られる地図の中にもごくたまに大当たりがあって嬉しく
なることもあるが…
地形図は消耗品と割り切って,多くのことを書き込むといい経験になる.
買える場所:駒場から日本地図センター(池尻大橋,山手通りとR246の交差点わき)
まで歩いてゆける.ここでは全国の地形図が揃う.また,渋谷の大盛堂書店地図
コーナーも品揃えがよい.最近ではごく一部の地図屋でオンデマンドプリントをしてくれるらしい.ちなみに1:200,000は一図幅¥320,1:25,000は¥270.
- ドラフティングテープ
- 現地ではあまり必要ないが,地形図を貼り合わせて持ってくるために部屋に
そろえておく.大学生協で細いものが入手可能だが,より太いものは画材屋や大きな文具店へ.渋谷東急東横店南館3階の伊東屋で,Scotchのものが手に入る.
- クリップボード
- 張り合わせた地形図をこれにはさみ,常にすぐ見られる体制にしておく.厚
いボール紙のもののほうがプラスチックのものより扱いやすいが,サイドの
補強(ガムテープ等でよい)が必須.ヒモをつけて首や肩からぶら下げられ
るようにすると楽.大学生協で入手可能.
現地で配られる資料や主題図をはさむのもお約束.
- フィールドノート(野帳)
- 雨の中でも書けるようなものが望ましい.古今書院発売の「雨にも負ケズ」
あたり.究極をいうとダイバーズショップで売っている水中で書ける(!)手
帳.
できるだけビジュアルに分かりやすく書く.理想は野帳の絵がそのまま投稿
原稿になること(ごくまれに本当にそれができるスケッチの達人がいる).
- 書類入れ
- 役所の人の案内で歩くような場合,多分大量に書類を配られるだろうから,それなりの入れ
物が必要(普段は小さいものでよい).プラスチック製のドキュメントフォル
ダがあればグッド.
- 携帯電話類
- 誰かはぐれたときのためにもつ.また,複数台の車で動くようなときには,全く連絡がつかなくなったときの統
一連絡場所(たとえば虫明・沖研事務)を皆で確認しておくことも必要.
中級者編[そろそろ一人で川を見始める人のために]
服装など
- 服装
- 様々なグッズを入れておくためのポケットが効率的に配置されているも
の.また,メガネの人は落ちないようにバンドをつける.
- 履物
- このレベルになったら,そろそろ長靴をそろえておこう.今では結構オ
シャレなものもある.
あと,替えの靴下を用意しておくと,現地で大胆な?行動がとれます.
必要なもの
- ヘッドランプ
- 暗くなったときの備えとしての役割はもちろんであるが,フィールドではたとえば森の中の湧き水や藪の中のパイプなど昼間でも暗いところを見ることがあるのでないと後悔する.
- デイパック類
-
- 双眼鏡
- 3倍のオペラグラスで最初は充分.凝ってくると明るさを求めて大口径に走り出す人もいる…
- ねじり鎌(愛称「ネコ」)
- 園芸用品店で売っている.土・ローム・風化礫層を削り,面を平らに整形す
るためのもの.
- コンパス
-
- カメラ
- 接写ができるものが望ましい.
- メジャー
- 金物で,3m以上あるのが理想.20cmおきに赤白に着色してポール代わりにす
るのは基本中の基本.
- ペンおよびフィールドノートを落とさないようにする工夫
- 首からぶら下げる派と巻き取りスプリング+安全ピンで服につける派がある.
どちらも一長一短.
さらに,クリップボードもヒモをつけて落ちないようにしよう.
- ストップウォッチ
- 使い方はいろいろ.たとえば流速観測.なお,「10秒ゲーム」などで,自分の秒単
位時間測定能力を鍛えておくのも基本(これは応用が利く)
上級者編[研究のリーダー格]
必要なもの
- 地質図・土壌図・植生図
- 地質は当該地域の自然を大きく規定する.また,場合によっては土壌図もあるとよい.植生図は必要に応じて.
- クリノメータ
- コンパスとしても使える,地層の走向傾斜を測る道具.高いがそれだけの価
値はある.
- ハンドレベル
- 自分の目の高さと目標物のどちらが高いか見る道具.簡易単眼鏡でもある.
微妙な傾斜を簡便に測るのに役に立つ.
- ハンマー
- 軽いものだと使い物にならない.でも重たいと持つのが大変.自分の一本を
探すのは結構苦労する.礫の地質を見るのは,割って新鮮な断面を出すのが
常識.
- サンプル袋
- スーパーで売っている「チャック付袋」.はがきくらいの大きさのものを数
十枚.大きいものがあると,意外とゴミ袋として重宝.
- 採水瓶
- フィールドの激しさによりガラスとプラを使い分ける.ガラスだとNaやSiの
影響,プラだと通気の影響があるかもしれないので一長一短(いずれにして
も採取してからできるだけ早く分析).足りなくなったらフィルムケースが
流用できる.
- ビニールテープとサインペン
- 採水瓶にキャプションをつけるなど,多くの用途に大活躍.他にもいろいろ使える.なお,雨雪の日は,
前もってすべての瓶に記号をつけておき,フィールドノートにはその対応表
を書く.そういう日は現地では瓶には全く書けないと思ったほうがよい.採
水瓶・ペン類はすぐに取り出せるポケットへ.
- ハンディGPS
- そろそろ常識かも.
マニア編(笑)
- 履物
- スパイク付の地下足袋か長靴があると土の斜面に非常に便利.
- 三脚
- 水の写真は,ときとして極端に暗い場所で撮る必要がある.
- ホイッスルやハンドマイク
- など,仲間と連絡を取れる用具.誰とは言わないがいつまでも岩石露頭や湧
水から戻ってこないヤツ(笑)がいるので.
- 水温計
- 電気伝導度(Ec)計,pH計
- EcとpHが両方測れてトランシーバくらいの大きさのものが10万円程度.ポケットに入るようなパーソナル版は3万円くらい.これが数千円にまで値が下がったら
いいのだけど…
- 浮き
- 半分くらい水を入れ,流して流速を測る.蛍光テープを貼って分かりやすく
するのがコツ.
- ヒモ付バケツ
- 特に都市河川の場合,これがないと採水すらできないことが多い.「設計」
は意外と難しい.重りがポイント.
- 流速計
- かさばらないものは意外と高い
- パックテスト類
- 多ければいいというものではないが…
AGATASHI